取り留めもなく
夜になり、春成は早々に布団の上に横になった。
だが、寝ることはしなかった。
姉の夫はやっぱり帰って来ない。
正月はどうするのだろう? ここに居ない方が良いとなれば、すぐにでも日々季の所に行くというのに。
今回はたまたま姉の家の屋根の修理があるから泊めてもらったが、春成が東京に来る時には大体伝手を頼りにしている。
それでお代金はチャラに……という輩もいて困るが、ありがたい事だと言って受け入れている。
それにしても、明水のことを失念していた。
姉にあの手紙が見つかり、無理だと分かった時、すぐに春成は日々季に手紙を出した。
それを運良くなのか、ふらっとやって来た風伊に見つかって、オレがやる! と力強く言って来たものだから無下にはできなかったと日々季は言っていたが――風伊は日々季の
――それは自分も同じか……と春成は体の向きを変える。
この家には霊的なものがいなくて良い。
姉も自分と同じように霊感がある。
それは母の血を色濃く受け継いだからであろう。
弟の
それを秋恒は残念だ……とも言ってなかったけれど、どう思っているのだろう。
考えたこともなかった。
(いや、それより――)
冬野はちゃんと寝れているだろうか。
こうして離れてみるとちゃんと結界を強化しといて良かったとか風伊を行かせて良かった……と思えて来る。
不安は少しでも減らしておきたい。
それは部屋を後にする姉に言われた事を思い出してもそうだ。
あの姉が『秋恒に似てるわね』と言った。
それはそうだろう。
何となく無意識になのか、似ていないとする実の弟の口調を真似していたのだから。
何故そんな事をしてしまったのかと言えば、出来れば会いたくないという思いからなのだろう。
自ら予習をしてしまっていたらしい。
そのくらいアイツは苦手……というのも違う気がする。
その近くに居る母が苦手なのだ。
血の繋がる母なのにどうも苦手だ。
あの人の嫌な所を見てしまったのも原因だろう。
何故それほど執着するのか。
冬野とは反対な人。
あまり冬野は執着しない。
するとしても自分に都合が良いかどうかだけ……とも言い切れないが、確実に分かりやすいのはそんな時だ。
それでも自分はそんな冬野が好きだ。
手放したくない。
きっとそんな話をしたら、それがなければ自分は選ばれなかった! と言うかもしれないが、それでも今の彼女が好きだ。それに変わりはない。
それがなかったら選びましたか? と訊かれたら、自信を持って、ああ……とは答えられないだろう。そんな小さい選択肢の中で自分は生きている。
いつまでも避けていては始まらないと出て来たが、やはり、あの母を見たくないから避けている――俺と弟をまだ比較する人。
そこから逃れたと思ったのに、まだ完全な自由を手に入れることは出来ていない。
秋恒が出来ない事をする為に俺はいる――それが後ろに下がるということ。
いや、本来なら秋恒がするべき事なのに、それを今までしていた自分から見ても秋恒は甘やかされている――能力の違いとか何とか言うのかもしれないが、秋恒だってその立場になったらやるしかない! と思って、やってくれそうな気もするが、信頼はないだろう。
残念だ――。
人と人との信頼はこの場合、出来るか出来ないかで決まる。
あの秋恒はできるのか? 一度の失敗でそれは平気でなくなってしまう。
その怖さをアイツはまだ知らない――と評価されるだけの男……。
(今までの実績が少な過ぎるからな……)
アイツは小さい時、病弱だったからそれがずっと付きまとって離れないでいる。それが一番の弱みだろう。
時刻はまだそんなには経っていない。
他にできる事、それはきっと冬野が喜びそうな事を考え、してあげるのが一番だと分かるが、きっとそんな時間もなく働くのだろう。
こき使うとは言えないのも自分が何でも屋として働くと決めたからだ。
それなりにして、それ以上のものを与えることはないけれど、満足してもらうのが一番だ。
さて、朝になればずっと
姉がきっと見守るだろうから手際良くやらなくては! と明日の準備の為に春成は考え出した。
何が必要でどうやるか……それだけ分かれば後はぐっすり寝られた。
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