難読報告
翌日には姉に見守られながら屋根の修理をし、暇な時を過ごそうかと思えばそうはさせない! と次から次へと誰かから用事を言われ、片っ端からそれらを終わらせて行く。
最も面倒臭かったのはデパートのセールに行くから荷物持ちをお願いしたい! という中年のおばさんの買い物に付き合った時だった。
結婚はまだなの? じゃあ、良い人を紹介してあげる! と世話好きなのか断っているのに次から次へと相手の候補をあげて来る。
どうしてそんなにいるのかと尋ねたい気持ちだったが、妙に話を膨らませればもっと大変になると思いそれはしなかったが、へとへとになる頃には大晦日も過ぎ、正月の朝になっていた。
ふと部屋の窓を見れば、一羽の鳩が目に入った。
これは――とそっと窓を開ければ、ひょいっと部屋に入って来た。
「迷いはしなかったか?」
鳩の頭を軽く撫でると無言で鳩はまたその開いた窓から出て行った。
春成の手には小さい紙切れがあった。
あの鳩の足に上手く結ばれていた物で汚い難読文字で『春成様』と書かれていた。
これはきっと自分と日々季くらいしか読めないだろうと思いながら、その文字を読む。
「……餅つきをしただと?!」
何の為に……。
『正月は、きっと楽しく過ごしていると思います。お年玉欲しいな……』
これは何だ? 冬野をどうする気なんだ? アイツは! ちゃんと分かっているのだろうか? 俺の不安を
もしかしたら、今の声で姉は起きてしまったかもしれない。
これはいけない。
すぐにその紙切れを服に隠し、部屋を出る。
「おはよう」
姉はすでに起きていた。
落ち着いた態度にこちらは緊張する。
「明けましておめでとうございます、姉さん」
「そうね、そうだったわ」
この挨拶を今年一番にしたかった冬野はあの風伊にしているだろうか……と思うとこんな事をしてる場合ではない! と思ったが、どうやっても今日中に帰れる予感はしなかった。
「いよいよだわね」
「ああ……」
全てはこの日の為。
それが終わったら、俺は……。
昨日急に入った仕事をしなくてはならない。
そんなのをしてどうする? という感じだが、本人にとっては急務なのだろう。
「あら、嫌だ怖い顔。そう、仕事なのね、そっちの」
「ああ……」
だからもう秋恒の真似はしなくて良い。
本来の自分になろう。
「姉さん、俺は離れで終わらせたいと思ってる。その後の方に時間をかけたいからね。姉さんは行くんだろう? だとしたら、そう言っといてくれ」
「分かったわ。でも、あたしも離れに用があるのよ。離れにも知り合いはいるしね……」
「そう」
「秋恒だって、来るわよ。一応全ての人に挨拶をするんじゃない?」
その言葉を信じて待つか……日々季の話ではまだ秋恒は離れに住んでいるという。
その時のそれが終わってからだそうだ、移るのは。
「今日は長くなるわね!」
「姉さんはね」
そう言って、晴天を見る。
「大丈夫よ、あの伝書鳩はもう行ったわ」
こっそりと教えてくれる姉さんは全てをお見通しなのかもしれない。
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