第24話
港に着き、僕とめいはトラックから降ろしてもらう。
「まぁ、気をつけろよ」
「はい、ありがとうございました」
次のフェリーまではまだ時間があるので、待合室には何人かいるだけだった。
申し込み書を記入し椅子に腰かけて一息つく。
めいはただ僕の手を軽く握って隣の席に座っていた。
緊張がほぐれたのか、睡魔が襲ってくる。
重くなる瞼に逆らえず、少しの間目を閉じた。
ハッと顔を上げると、いつの間にかめいが僕の両手を握ってしゃがんでいた。
ただ、その人はめいではなく母の姿をしていた。
どちらかと言うとそれが本来の姿なのだろう。
疲れて寝ぼけているのだろうか。
母は僕の目を見て、ゆっくりと口を開いた。
「良かったわ、新太が優しい子に育ってくれて。私は祐樹さんとあなたの姿を一目見るのが私の願いだったの。」
そう言うと母は一呼吸おいて立ち上がった。
そして、僕の頭を撫でる。優しい笑顔で、でも少し泣きそうな表情で。
「ちょっと、お兄さん」
男性に肩を叩かれて僕は目を覚ました。
「今日のフェリー乗るんだろ?次で行くなら受付するけど」
その男性は記入済みの用紙を指さした。
慌てて僕は「お願いします」と用紙を渡した。
受付で料金を支払い、渡されたチケットを確認する。大人一人分のチケットだ。
「すみません。チケットもう一枚欲しいんですけど」
すると男性は先程渡した用紙を確認し
「大人一人分しか記入ないけど、もし必要ならもう一枚書いてきて」
と先程の用紙を見せてきた。確かに一人分の記入しかなかった。
仕方ないのでもう一度書こうと振り向いたとき、めいが居ないことに気が付いた。
窓からは真夏の日差しが差し込んでいた。
「すみません、小学生くらいの女の子居ませんでしたか?」
受付の男性に聞くが「いや」と首を振った。
『本日は見事な晴天です。強い日差しと高気温での熱中症にご注意ください』
待合室に流れているテレビから、明るいニュースキャスターの声が耳に届いた。
その声に促されるように外に出る。太陽の眩しさで目がくらむ。
目が慣れてくると、そこには雲一つない青々とした空が広がっていた。
久々に見たその空に目を奪われていると
「よう、坊主」
と聞きなじみのある声が聞こえてきた。
その方向に目をやると、軽く手を上げてはづきが歩いてきた。
「あ、はづきさん」
はづきもここまで無事に来れたようだ。これから北海道に向かうのだろう。
「無事に来れたか」
とはづきは白い歯を見せて笑う。
「でも、めいが居なくて」
そう言うとはづきは慌てる様子もなく言った。
「六月はここが終点よ。お疲れさん」
はづきはまた僕の頭をくしゃっと撫でる。
「まぁ、そういうことだ。だからこれはもういらんだろ」
そう言うとフェリーのチケットをひらひらさせた。
いつの間にか僕の手から奪っていたらしい。
「じゃあな、坊主。気い付けて帰れよ」
はづきは踵を返して歩いて行った。
はづきの背中を見送って、僕はもう一度晴れ晴れとした八月の空を見上げた。
『北海道に梅雨はこない』
日本の昔からの定説だ。
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