第23話

雨はまた強くなってきていて、フロントガラスを叩いている。

「祐樹さんから連絡来た?」

とめいが独り言のように呟く。

「いや、まだ来てない」

これまで何度も確認したが、祐樹からの連絡はなかった。

ふたりだけの車内に沈黙が流れる。

「ごめんね、巻き込んで。本当は新太とも会っちゃいけなかったんだ」

とめいは静かに続ける。

「佑斗さんのこともごめんね......私のせいで」

「それは」

めいのせいじゃない、そう言いかけたところでトラックの扉が同時に開いた。

さっきまで運転席側に座っていた智哉が外側から乗って来る。

僕とめいに詰めるように言って、端に座る。

「俺この先のコンビニで下ろしてもらうから、港まで乗せてってもらってくれ」

「どういうこと?」

よくわからずに智哉に聞き返すと

「お前ら追われてるんだろ、事情はよく知らねえけどな」

と運転手はタバコに火をつけてトラックを走らせた。

どうやら、運転手がついて来ている車に気が付いて智哉を問いただしたようだ。

下ろしてもらうコンビニにはもうタクシーを呼んだらしい。

僕たちがコンビニに着くころ、タクシーもつくだろうとのことだ。

追ってきている車はおそらく一台なので、智哉の方についてってくれればと半分賭けのような感じだった。

めいの来ていたカッパを智哉の持ってきたリュックにかぶせる。

雨が強いのに加えて深夜なので、遠くから見れば寝てる子供をを抱えてるように見えるだろう。

ほどなくしてコンビニに到着した。タクシーは先に着いているようだ。

「じゃあなふたりとも、こっちに着いてこなかったらそん時はまた考えようぜ」

そう言うと智哉は不安をかき消すように歯を見せて笑った。

「わかった。気を付けてね」

そう返すと智哉はリュックを抱きかかえタクシーに向かった。

少しするとタクシーは駐車場を出た。

それを追う車がいることを確認し僕たちも駐車場を後にした。

この作戦は何とかうまくいったようだ。僕はほっと胸をなで下ろす。

「あの、なんでそこまでしてくれるんですか?」

僕は素朴な疑問を運転手に投げかけた。

見ず知らずの他人なのだ。

おかしなことに巻き込まれない保証はないし、さっき全員下ろすこともできたはずだ。

すると運転手は新しくタバコに火をつけて、大きく息を吐きだした。

「さっきのクソ親父に言われたんだよ、お前が受けた恩は次の代に渡してくれってな」

クソ親父と言うのは、僕たちが最初に乗せてくれたトラック運転手のことだろう。

「俺は出来が悪くてな、就職もできなかった。そんな時にあの親父に拾ってもらったのよ。こうして俺が生きてるのはあの親父おかげみたいなもんだから、言いつけを守っただけだ」

と運転手はぶっきらぼうに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る