第22話
その時、智哉の携帯にあやから着信が入った。
智哉が電話に出ると、顔色が変わった。
僕とめいのことを多目的トイレに追いやる。
「どうしたんだよ」
「いいからカギ閉めてちょっと待ってろ、すぐ戻るから」
とどこかに走って行った。
あやたちの身に何かあったのだろうか。
心配だがめいと離れるわけにはいかなかった。
五分くらい経ったときトイレの外から智哉の声が聞こえた。
「新太、もう出てきて大丈夫だ」
トイレから出ると「こっち来い」とあやたちが居る方とは別の方に歩いていく。
「あやたちは?」
と聞くと、少し間が開いて
「多分捕まった。でも、他の交通手段確保したから」
智哉の言葉にはてなが浮かんだが、それはすぐに分かった。
「おー、兄ちゃんこっちっこっち」
と小柄な六十過ぎくらいの男性が僕たちを見て手を振っていた。
隣には大きなトラックがあるので、おそらく運転手なのだろう。
「おふくろさん大変だな。まあ乗れや」
と男性は気前よく三人を助手席に乗せてくれた。
智哉が運転手に何を言ったのかは分からないが、何かうまいく話を付けてくれたのだろう。
トラックは見ると三人乗りのようだが、運転手は
「嬢ちゃんはちょっと目立たないようにしてくれや」
と言うだけだった。
走っている途中は運転手と智哉がたわいのない世間話をずっとしていた。
この人当たりの良さが智哉のいいとこでもある。
たまに僕にも話を振られて、それに答える。
そうしている間に運転手がサービスエリアに寄った。
「悪いけど、俺はこの後高速降りるから、後は他を探してくれや」
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
と智哉はいつの間にか買っていた缶コーヒーを運転手に渡した。
「おーありがとな、兄ちゃん。あ、ちょっと待ってな」
運転手は何かに気が付いたように、その場を離れた。
「なあ、あの運転手さんになんて言ったの?」
「いや、まあ。母親が入院してるみたいな感じ?」
と智哉は少しバツの悪そうな顔をした。
そして、言い訳するように言った。
「でも、これ姉貴とあやの提案だからな」
「助かったよ、ありがとう」
そんなことを話していると、先程の運転手が戻ってきて
「あいつが青森まで乗せてってくれるってよ」
そう言う運転手の視線の先には、三十くらいの仏頂面の男性が立っていた。
どうやら知り合いの運転手に話を付けてきてくれたらしい。
「ありがとうございます!」
「いや、いいのよ。あいつちょっと無愛想だけど我慢してな」
と豪快に笑った。
次に乗せてくれた運転手は僕たちがトラックに乗り込んで挨拶をすると「あぁ」とだけ返事をしてトラックを走らせた。
途中一度だけ休憩をはさみ、青森で高速道路を降りた。
「ちょっと寄り道するぞ」
と運転手はセルフのガソリンスタンドに入って、トラックから降りる。
そして智哉にコーヒーを買ってきてほしいと小銭を渡した。
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