第20話

「姉貴免許取ったのいつだっけ?」

強い雨風のせいか車は時々ふらついている。

それが心配だったのか智哉が聞いた。

「高校卒業した時だよ。それから全然運転してないど」

菜々はハハッと苦笑いする。

それを聞いた智哉の顔は明らかに強張っている。

僕とあやも同じような顔をしていただろう。

「え、まさか、これで北海道まで行く気じゃないよな……」

「いやー、行けるとこまで行くっしょ。大丈夫だって」

智哉の心配をよそに菜々は楽しそうに言った。

その時、外を見ていたあやが「あ、あれ」と呟いた。

無人駅に黄色いカッパを着ためいらしき人が見えた。

車を止めてもらい僕だけ駅に入った。

駅のホームの方向に体を向け、空を見上げるめいは近づく僕に気が付いていないようだ。

「めいちゃん」

と声をかけるが、それも聞こえていないのか反応がない。

それとも、自分の名前がめいではないということも思い出したからなのだろうか。

もう一度名前を呼ぼうとして、ふと祐樹の日記のことが頭によぎった。

少し迷い僕はもう一度声をかけた。

「母さん?」

そう言うとめいは勢いよく振り、僕の顔を見るとぽろぽろと泣き出した。

「なんで、来たの?もう巻き込みたくなかったのに」

泣きながらなのでよくわからなかったが、おそらくそんなことをめいは言った。

「一人で行かせるの心配だし、もう十分巻き込まれてるよ」

めいが少し落ち着いたので、手を差し出す。

「一緒に行こう」

そう言うとめいはゆっくりと僕の手を握って

「別れるまではめいって呼んで」

と恥ずかしそうに微笑んだ。


僕たちが車に戻るまでの間に、高速道路で青森まで行こうという話になっていたようだ。

もちろん何かあれば途中から一般道に移ったり、電車などを使う予定だ。

菜々の運転は少し心配ではあるが、とりあえず高速道路に入ることはできた。

雨風の影響で車は気持ちゆっくり走っているようだった。

高速道路に入って少しした時、智哉が菜々に聞いた。

「そういえば姉貴、日記だけでよく来たな」

「まあ、私オカルト的なの好きだし、慌てて出てったみたいだったから何あったのか気になるじゃん?」

それを聞いて、中学生の夏休みに菜々に連れられてUFOを探そうとしたことを思い出す。

テレビで見たという怪しい儀式をしたのだが、結局UFOを見つけることはできなかった。

それに飽きた智哉が花火を買ってきて、海岸で騒いで通りがかりの警察官に注意された。

馬鹿馬鹿しかったとは思うが、今となっては楽しい思い出の一つだ。

「別にあんたたちに言われたって信じなかったわよ、祐樹さんの日記があったからで……」

と言ったところで菜々は口をつぐんだ。

「あー、祐樹さんのこと好きだもんなぁ」

意地悪そうに言う智哉に

「別に、そんなんじゃないし」

と言う菜々の顔は心なしか赤くなっているような気がした。

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