第19話

朝、僕は焦ったあやの声で起こされた。

「めいちゃんが居なくなった」

寝不足でぼんやりした頭を覚まさせるには十分な言葉だった。

あやの髪と服は少し濡れていて、この雨の中どこかを探してきたようだった。

「新太くん家に行って来たけど、いなくて。ともくんは駅の方行ってくれてるんだけど」

と言い終わらないうちにあやのスマホが鳴りだした。

智哉から着信だった。

あやは二、三言話すと電話を切った。

「電車止まってるんだって。めいちゃん居ないから、次の駅まで行ってみるって言ってた」

あやは今にも泣きだしそうな顔をしている。

僕たちも取り合えず智哉のところに向かおうと立ち上がる。

その時、マウスが動いたのかパソコンの画面が明るくなった。

朝方まで読んでいた祐樹の日記が映し出される。

ふと改行の印に目についた。下までスクロールしてみると

『思い出しました、ごめんなさい さつき』

と書かれていた。

「これ、めいちゃんかな」

パソコンを覗いたあやは呟く。

昨日のことがきっかけで、めいの記憶は戻ったのだろうか。

これ以上迷惑はかけられないと思ったのか、僕たちがまだ寝ている間にひとりで出て行ってしまったのだろう。

電車が止まっているのなら、歩きででも北に向かっていったのかもしれない。

僕とあやは急いで智哉のもとに向かった。

智哉は既に次の駅を過ぎたところを歩いていた。

めいはまだ見つかっていないようだ。

「おー、新太寝れたか?」

「ちょっとはね」

と呼吸を整えながら返事をする。

「しっかし、あいつどこまで行ったんだ。まったく見えないよ」

智哉はため息をつく。

この町から北側へ出るにはこの道路しかない。

めいが来たに向かっているなら、この道をたどって行けば追いつけるはずだ。

電車が止まっているので、追いついてからどうしようかはまだ考えていない。

ここまで状況を知ってしまって、めいをほっとくのは後味が悪いというのが僕らの総意だった。

次の駅まで三人でただ歩いていると、車が一台僕らの隣で急ブレーキを踏んだ。

昨日の男たちかと一瞬身構えたが、運転席に座っていたのは智哉の姉の菜々ななだった。

「あんたら、この雨の中一体どこまで行くってんのよ。ほら乗って」

「姉貴なんでここに?」

「大学生は暇なのよー。新太君?こういうのはちゃんと保管しないと痛い目見るわよー」

と菜々が取り出したのは、家の鍵と猫のUSBメモリだった。

めいの書いた文を見て慌てて出てきてしまったので、USBメモリを抜いてくるのを忘れてしまっていた。

「姉貴勝手に中見たのか?」

「まあ、あれ私のパソコンだし?そのままだった方が悪いでしょ」

車を走らせながら菜々は悪びれる様子もなく言った。

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