第18話

ふたりの生活にも慣れたころ、めい割れた皿で手のひらを切って怪我をした。

しかし、その傷は次の日には治っていらたしい。

それも、何もなかったかのように綺麗に。

それがきっかけで、めいの髪を一束切ってみたこと。

それも次の日には戻っていたこと。

今後に不安を抱きながら、めいの身長を柱で測って日にちとともに印をつけたことが書かれていた。

文章から察するに、身長だけでも変化していてほしいという切実な思いがあったのだろう。

次の日記は日付が開いて三か月後に一行だけ『身長も変わらない 日付を消した』と書かれていた。

柱の日付が削れていたのは、祐樹が故意に消したようだ。

めいが来てから、祐樹は一体どういった気持ちで過ごしていたのだろうと考えて目頭が熱くなる。

佑斗が亡くなってから、ひとりで変わらないめいと向き合っていくのは大変だったはずだ。

それから日が開いて、由香が僕を夏休みの間そっちに預けてもいいか打診した時のことが書かれていた。

少し迷いはあったようだが、僕が来ることで何か変化があればいいと考えていたようだった。

僕がめいと図書館に行った日、めいを外出させて良かったのかと後悔していたような文章があった。

めいが来てから二年経つので大丈夫、大丈夫と祐樹は自分に言い聞かせているようだ。

僕が来てからめいの笑顔が増えていることに対して、嬉しいとようなことも書いてある。

そして僕らが水族館に行った日、僕がはづきに初めて会った日。

僕にめいのこと話した方がいいのか、悩んでいるようだった。

めいのことを話すということは、佑斗のことにも触れなければいけない。

それが心配の種だったようだ。

そして、昨日花火大会の日に会場に来る前に書いたのだろう。

『僕が何かに気が付いているようだから、花火大会が終わったら話をしてみよう。』

と書かれていた。

一通り読み終わると、どっと疲れが押し寄せてきた。

横になって瞼を閉じると、先程の日記がまた見えるようだった。

祐樹の不安や心配に直接触れて、僕の心にも不安が流れ込んできているようだ。

今祐樹は大丈夫なのだろうか。

めいのことをこのまま北に連れて行けばすべて解決するのだろうか。

答えの出ない問題が頭の中をかき回すが、疲れには勝てず僕は深い眠りに落ちた。

いつもより強い雨と風が窓を揺らしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る