第14話

はづきの話が終わると、花火は終盤に差し掛かっていた。

音の合間に男たちの騒いでいる声が聞こえてくる。

酔っ払いが暴れているのかと思ったがその声は、聞きなじみのある祐樹の声だった。

周りの人は花火の音で聞こえていないようだった。

急いで声の聞こえるテントの方に行くと、祐樹が何人かいる黒いスーツを着ている男たちに連れていかれようとしているのが目に入る。

「祐樹さん!」

思わず叫ぶと、祐樹がこちらに気が付き目が合う。

祐樹は腕を掴んでいる男を蹴り倒して手を振り払った。

男たちが怯んだ一瞬の隙をついて、祐樹はこちらに何か投げた。

「新太君、ごめん!」

それは僕の少し手前に落ちる。

スーツの男がこちらに走ってくるのが見えた。

それを拾い顔を上げると、目の前に男の手が僕に今にも掴みかかろうとしているところで止まっていた。

それに驚き、「うわっ」と声を出して尻もちをついて後ずさる。

水族館の時と同じ状況だった。

音もなく、すべてが止まっていて、夜空に咲いた花火が辺りを明るく照らしている。

「坊主、急げ!六月も連れてこい!」

はづきの言葉にハッとして、それをポケットにしまって走った。

海辺に行くとあやとめいはすぐに見つかった。

ふたりとも他の人と同じで止まっているが、めいの手を軽く引くとめいは動き出した。

めいは周りを見るとすぐに顔が不安の色に染まった。

ついさっきまで一緒に花火を見ていたあやも止まっているのだ、そうなるのも仕方ない。

「めいこっち来て」

声をかけるとめいはゆっくりと足を進めた。

はづきのところまで戻ったころには、波の音が戻り始めていた。

はづきはめいを軽々持ち上げて、住宅街に向かって駆け出した。

祐樹のことが気になり足を止めると

「悪いが、今はあいつをおとりにして逃げるしかない。わしらまで捕まるわけにはいかんのじゃ」

とはづきに言われ、仕方なく付いていく。

背中越しに花火がはじける音が聞こえ始める。

物陰に隠れるとすぐにはづきはめいを下ろして「間違いないな」と呟く。

「なんで、契約を破った?なんでここに留まってる?」

はづきは小声でめいを捲し立てる。

それに驚いたのかさっきの出来事が怖かったのか、めいの目からポロポロと涙が零れ出した。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

と呟きながら泣くめいに、これ以上は何か聞くことは難しそうだった。

ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。

「はづきさん、その選ばれる人って年齢制限みたいなのってあるんですか?」

「どういうことだ?」

「僕がめいと接していて、どうしても他の小学生と同じ位にしか思えなくて」

そう言うとはづきは眉間にしわを寄せた。

「年齢制限があるかは分らんが、契約を理解して遂行できる人たちしか選ばんだろ。この年齢で選ばれることは無いと思うんだがな」

もし、めいが大人だったとしたら今までのことは演技には見えない。

それに契約を破ってまでしてここに留まる理由は分からなかった。

「そういや坊主、さっきの男が投げてきたのは何だった?」

はづきに言われて、拾ったものの存在を思い出す。

ポケットから取り出すと、それは家の鍵と猫の頭の形をしたシリコン製のキーホルダーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る