第13話
海辺には今年も沢山の人が集まっている。半分くらいの人が浴衣を着ているようだ。
ふと目の端にオレンジのアロハシャツが映った。
水族館で会ったはづきも来ているようだっだ。
その時、一発目の花火が打ちあがった。大きな音と光がその場に居る人々の目を奪う。
僕はそっとその場を離れて、はづきのもとに向かった。
「はづきさん!」
花火に音にかき消されないように大声で呼ぶと、はづきは軽く手を上げた。
はづきは白い柵に寄りかかって、透明の使い捨てコップに入ったビールを飲んでいた。
「なんだ坊主、また会ったな」
「はづきさん、どうしてここに」
「ああ、この花火が見たくてな」
と花火を見上げた。
花火に照らされたはづきは寂しそうな懐かしいような、それでいて少し嬉しそうな、そんな表情をしていた。
はづきはビールをあおると、
「ところで坊主、六月は見つかったか?」
と聞いてきた。
その言葉にふとめいの顔が浮かんだ。
まだはっきり決まったわけではないが、
「多分」
と答えるとはづきは「そうか」とため息をついた。
「この身体で生活するには苦労が多かったろうに」
「あの、はづきさん達についてもう少し教えてもらえませんか?」
めいが六月である確信が欲しかった。
というよりは、祐樹にめいのことを聞く後押しが欲しかったのかもしれない。
「その面白そうな話、俺も混ぜろよ」
その声に振り返ると、そこに智哉が立っていた。
「智哉、なんでここに?」
「別にいいだろ。なあおっさん、俺には話せない内容かよ」
智哉は煽り口調で言う。
「坊主、そいつは信用できるのか?」
はづきに聞かれて、僕は頷いた。
「僕の親友です」
はづきは仕方ないなとように息を吐いた。
「まあいいか、問題はだらけだしな、それに坊主だけじゃ頼りないからの。お前さんみたいなのが居たほうがいいだろうな」
と言うと、言葉をを選ぶようにゆっくり話し始めた。
自分たちは既に亡くなっていてること。
この世に未練が残っている人の中から無作為に選ばれて、季節を運ぶという役割を与えられていること。
選ばれた人たちは、日本の北から南へ、または南から北へ移動すること。
身体は自分のもので、どこかの年齢の体に代わってこの世界に来ること。
記憶は亡くなった時と同じで、外見で変わることはないこと。
身体は外見だけのものなので怪我せず、成長せず、一日が終わると元の姿にリセットされること。
そして、空腹もなく、痛みや味も感じないこと。
「わしの願いは嫁さんと見たこの花火を、もう一度見ることだ。だからここに来た。その子の願いは一体何なんだろうな」
とはづきは言った。
智哉は終始、渋い顔をしていた。
こんな話を聞かされてすぐにこの話を信用しろというのも無理な話だ。
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