第12話

花火大会当日、朝から強い雨が降っていた。

めいは縁側で心配そうに空を眺めている。

今日をとても楽しみにしていたようで朝食の時も珍しくめいの箸が止まっていた。

「めい、これくらいの雨じゃ花火大会なくならないから大丈夫だって」

と祐樹は空を眺め続けるめいに呆れたように言う。

天気予報によると、これから雨は徐々に弱くなっていくようだ。

夜には小雨になるようなので、花火は海辺で見ることができるだろう。

「もし雨強かったら、去年みたいにここで見ればいいでしょ?」

そう言った祐樹の言葉にハッとして顔を上げると、祐樹と目が合った。

祐樹は焦ったような顔を一瞬見せるが、すぐにいつもの顔で

「じゃあ俺、部屋で仕事してるから」

と言い残し居間を後にした。

去年もここで花火を見たとすれば、少なくとも一年以上前からめいはここに居ることになるだろう。

しかしすぐに、近所に住んでいて一緒に見ただけかもしれないと思い直すが、それと同時に智哉の言葉も思い出した。

小さな町だ、引っ越ししてくれば新しい住人のことはすぐに広まるはず。

めいのことを考えると疑問は大きくなっていくように感じた。

薄暗くなり始めたころ僕とめいは、あやの所に向かった。

「俺もう少し仕事していくから、後で合流するね」

と玄関先で手を振る祐樹はいつもと変わらない様子だった。


あやの家に着くとあやはわくわくした様子でめいを奥の部屋に連れて行った。

縁側で本を読んでいると、智哉は小さなりんご飴を食べながらやって来た。

左手には食べているのと同じりんご飴が三つ握られている。

ここに来る前に屋台に寄ってきたようだ。

智哉は僕に「ほれ」とりんご飴を一つくれる。

「屋台今年は何あった?」

「焼きそばに、タコ焼きに、綿あめとかき氷かな。あ、あとじゃがバターもあったぞ」

「小さい町なのに屋台多いよね」

「それな。屋台のって美味いんだけどちょっとたけーよな」

「確かに」

僕らが談笑していると後ろの障子が引かれ、めいとあやが姿を現した。

めいはこの前の浴衣に髪の毛上げて、お団子にセットしてもらったようだ。

あやは水色の生地に大きめの白い花が描かれている浴衣を着ていた。

髪はめいと同じお団子にしている。

「見てー!あやちゃんとお揃いにしてもらったのー!」

とめいは僕の足元で跳ねている。

「可愛いね、似合ってるよ」

と言うとめいは満足そうに、へらっと笑った。

あやと智哉は言葉を交わさず、お互い目を合わせず下を向いている。

ふたりとも心なしか顔が赤いように見えるのは気のせいだろうか。

めいが空気を読まず、あやに駆け寄り「花火行こ!」と言った。

「そうね、早くいかないと花火始まっちゃうね」

あやはめいの手を優しく握った。

「あ、これ」

智哉は思い出したかのようにふたりにりんご飴を渡す。

「もう屋台寄ってきたの?ずるいなあ」

あやは恥ずかしそうに笑った。

手を繋ぐふたりの背中を見ながら僕は智哉を肘で小突いた。

「悪いなめいが」

「は?べ、別にそんなんじゃねーし」

と智哉は視線を空にやるが、すぐに何か思いついたような顔をして

「なんだ新太、俺らも手つなぐか?」

と強引に腕を絡めてきた。

智哉の方が背が高いので、少し体が持ち上がる。

「お、おい止めろって」

「いいだろー、お前も寂しい身だろー」

そうやってふざけていると

「ちょっと、何やってんの?早くいくよー」

あやはこちらを振り返って、呆れたように声をかけてきた。

花火大会の会場に着くと、いくつか立ててあるテントの中に祐樹が居るのを見つけた。

めいは祐樹に駆け寄り、さっそく着物を見せている。

その無邪気な姿は小学生そのものだった。

花火が始まるまで祐樹が買ってくれた、焼きそばやたこ焼きやラムネを食べたり飲んだりして過ごした。

その頃までには雨はぱらぱら降る程度になり、傘は必要なさそうだ。

「そろそろ、始まるかな?俺テントにいるから終わったらここに戻ってきて」

と祐樹に言われて僕らはテントから海辺に向かった。

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