第11話
あやの家に着くと祖母が縁側にスイカを持て来てくれた。
ふたりが着替え終わるを待つ間に、智哉と一緒にスイカをほおばる。
相変わらずの小雨は屋根から落ちてポツリポツリと音を立てていた。
「智哉達はめいちゃんのこと知らなかったんだよね?」
「知らなかったけど、なんで?」
「なんか、長い間居るみたいだからどれくらいいたのかと思って」
「え、そうなの?長い期間って例えばどれくらいよ?」
「二年......とか?」
「いやそれは無いだろ。」
と、智哉は笑って続ける。
「こんな小さな町だぜ?二年も居れば近所のばあちゃんたちに可愛がられてるって」
と首を振った。
「まぁ、そうだよなぁ」
「ていうかそれなら本人か祐樹さんに聞けばいいじゃん」
「そうなんだけど、ちょっとね」
祐樹さんの反応を思い出すとめいのことを詳しく聞くのは気が引けた。
「なんで二年前から居ると思うんだよ?」
「何となく」
確証は無いのだが、はづきが言っていた二年前からの雨と関係するのならその頃からなのだろう。
しかし、子どもを二年も隠し通すのはやはり無理があるだろう。
そんな話をしていると後ろの障子が開いて浴衣に着替えためいが出てきた。
浴衣は紺色の生地に桃色や紫色の朝顔が描かれて、帯は薄い桃色でとても似合っている。
「かわいいね、似合ってるよ」
そう言うとめいは恥ずかしそうにあやの後ろに隠れた。
「サイズ少し大きいから裾上げしてるんだけど、新太くんやり方わかる?」
「いや、わかんない」
「そうだよねー。じゃあ、花火大会の日ここ集合にしようよ。そしたら着付けできるし」
あやがめいと視線を合わせて「ねー」と言うと、めいは嬉しそうにこくこくと頷くので断ることはできなかった。
めいが着替えている間にあやは先に縁側に来た。
「なんか色々してもらって迷惑じゃない?」
スイカを手に取るあやに声をかけるとあやはきょとんとする。
「なんで?妹できたみたいで嬉しいよー。むしろこっちが祐樹さんとかに迷惑かけてないかなって」
と苦笑いする。
「この前も水族館で怪我させちゃったし。でも、綺麗に治ってて安心したよ」
あやのその言葉に僕は「あっ」と小さく呟いた。
幸いそれはふたりには聞こえていなかった。
水族館に行った時の次の日の違和感の正体に気が付いたのだ。
めいが朝起こしに来た時、膝にガーゼどころか傷もなかった。
しかし、僕が今に降りる頃には膝にガーゼを貼っていた。
それに違和感を覚えたのだろう。そうなると次に気になるのは、祐樹の行動だ。
傷のないところにガーゼを貼ったことになる。
それにめいを抱えて行った時の慌てようを考えると、僕に何かを隠しているのだろか。
そんなことを考えていると五時のチャイムで現実に引き戻された。
「あ、やべ。帰りに買い物頼まれてたんだった」
と智哉が慌てて立ち上がる。
「僕たちも帰ろっか」
スイカを食べ終わっためいに声をかけると、めいはしぶしぶ立ち上がった。
めいはすっかりあやに心を開いているようだ。
家に帰るとめいは嬉しそうに花火大会の日のことを祐樹に報告する。
「そっかー。楽しみだね」
そう笑顔を見せる祐樹の顔が一瞬だけ緊張したように見えたのは、僕の気のせいだろうか。
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