第10話 花火大会

「新太ー。あらたくーん」

「あ、ごめん。何だっけ」

智哉に呼ばれて我に返る。

今日はまた四人で図書館に来ていた。

めいは大人しく隣で絵本を読んでいた。

あやは呆れたようにため息交じりで言う。

「花火大会行かない?って話よ」

「土砂降りじゃなきゃやるだろうし。まだ新太もこっちにいるんだろ?」

「八月いっぱいはこっちにいるから、一緒に行けるよ。明後日だよね?」

「うん。それなら、今日私の家寄ってかない?小さい時に着た浴衣あるんだよね。花火見にに行くならめいちゃん着てみない?」

「浴衣ってなに?」

「んー、着物みたいなやつ?可愛いよー」

あやがそう言うと、めいは

「着てみたい!」

と目をキラキラさせた。

「でも、いいの借りて?」

「いいのいいの。使わないとおばあちゃんのパッチワークに使われるだけだから」

とあやは笑う。

その日は勉強を切り上げてあやの家に向かうことにした。

あやとめいは手を繋いで少し前を歩いている。

女の子同士気が合うのかとても楽しそうだ。

その後ろを歩いていると、智哉が話しかけてきた。

「なあ、新太。さっきぼーっとしてたけど、なんかあったのか?」

智哉は心配そうな顔をしている。

「いや別に、昨日ちょっと寝れなかっただけ」

そう答えるが、水族館でのことと祐樹の言葉が何だか気になっていた。

「なんかあったら相談しろよな。お前の親父さんが亡くなって、すぐに東京行っちゃっただろ?あの時いつか連絡が付かなくなるんじゃないかと思ってひやひやしてたんだぞ」

智哉は意識して明るく振舞っているように見える。

心配はしているが暗い雰囲気にはしたくないのだろう。

思えば東京に行ってすぐは、智哉とあやから頻繁に連絡が来ていたことを思い出した。

心配しているような内容ではなく、何でもないような内容ばかりだった。

そういうところが智哉の優しいところだと思う。

「わかったよ、何かあれば相談するって。ありがと」

僕がそう言うと、智哉は照れくさそうに拳で小突いてきた。

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