第9話

めいはとても水族館が気に入ったようで、家に着くなり祐樹に興奮気味に水族館のことを話していた。

「そっかそっか」と祐樹も嬉しそうに話を聞いている。

僕がめいと出会ってから初めて子供っぽい面を見たような気がする。

「あれ?めい膝どうしたの?」

「転んだ?」

祐樹の問いにめいは疑問符をつけて応える。

「走ってきた男の子にぶつかってしまって。すみません」

僕が謝ると祐樹は「いやいや」と手を振った。

「子供だしそんなこともあるよ。なんか他に変わった事なかった?」

「変わった事?」

それを聞かれてはづきのことを思い出した。

祐樹がはづきについて何か知っているかの?と思ったが、なんだかそのことは言わない方がいいようないいような気がした。

「いや、ないならいいんだ。気にしないで」

と祐樹は立ち上がり、夕食の準備を始めた。


「新太君?」

祐樹に声をかけられて我に返る。

今日の水族館でのことを考えていて、皿を拭く手が手が止まっていたようだ。

「大丈夫?水族館行って疲れた?」

食器を洗いながら祐樹は笑う。

「あ、すみません」

「片付けすぐ終わるから後やっとくよ。先お風呂入って寝ちゃいな」

「いえ、大丈夫ですよ。そういえばめいちゃんて何年生なんですか?」

今日あやがめいに聞いていたことだ。

めいははっきりとした答えを言っていなかった。

「一応六年生みたいだけど、あんまり学校行ってなくてね」

一瞬祐樹は手を止めたが、後は話すことが無いというように皿洗いを続けた。

動揺しているのか、その手は少し震えているように見えた。


次の日の朝、僕はアラームを止めてもう一度、目を閉じた。

昨日の外出で体は意外と疲れていたようで、ベッドから出るのか億劫だった。

うとうとしていると一階からめいが上がってくる足音が聞えて、部屋の扉が少し開いた。

どうやらめいは僕のことを起こしに来たらしい。

めいは僕と目が合うとベッドの上に飛び乗ってきた。

「起きてー、ごはんー」

「起きてる、起きてるって」

僕が苦しそうに声を上げいると、祐樹が階段を駆け上がって部屋に入ってきた。

祐樹は慌てた様子でめいを抱き上げて

「ご飯できてるからね」

と、突然のことでぽかんとしているめいを抱えたまま一階に降りて行った。

なぜあんなに慌ててめいのことを連れて行ったのか分からず、僕もしばらくぽかんとしていた。

居間に行くとめいは朝食をちゃぶ台に運んでいるところだった。

その様子を見て、僕はめいの膝に貼ったガーゼに何となく違和感を覚えた。

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