第8話

イルカショーのエリアに行くと、水槽の近くの席に智哉とあやが居るのが見えた。

ふたりが居る場所は水しぶきがかかるので不人気なのか、まだ席が空いていた。

智哉がこちらに気づいて手を振る。

めいもそれに気が付いて駆け寄って行き、あやの隣にちょこんと座った。

「間に合ったんだ」

「まあね。それよりここ濡れるんじゃないの?」

「そんなこともあろうかと、じゃーん!」

とあやはバックから半透明のカッパを取り出した。

あやはイルカショーが一番楽しみだったようだ。

頼りなさげなカッパだが、せっかく持って持ってきてくれたのだ、この席で見るほかないだろう。

「来てくれて良かったよ、みんなで見ようと思ってたのにー。ってこいつ泣きそうだったんだから」

智哉が意地悪そうに言うとあやは「そんなわけないでしょ」と智哉を叩いた。

イルカショーが始まると水しぶきがかかるたびに、あやとめいは楽しそうに騒いでいた。

結局カッパだけでは水しぶきを防ぐことはできず、靴とシャツが少し濡れてしまった。

あやは前髪が濡れてしまい、ちょっとだけ不満そうな顔を見せた。

イルカショーが終わった後、ステージの水槽を泳ぐイルカをめいがガラスに張り付いて見ている。

他にも何人かの子どもたちがイルカを見たり、追いかけたりしている。

「新太くんは大水槽のところから来たんだよね?じゃクラゲとかまだ見てない?すごい綺麗だったよ」

あやはパンフレットを広げながら僕らがまだ見ていないエリアをおすすめを紹介してくれた。

順路があるので一旦出て戻ってくる方がいいかもしれなと思っていると、智哉が「あっ」と声を上げた。

それと同時に水槽の方からドンと音が聞こえた。

めいとイルカを追いかけていた男の子がぶつかってふたりとも転んでしまったようだ。

僕たちは急いで駆け寄りふたりを抱き起す。

男の子は既に泣き出していてるがどうやら怪我はないようだ。

そこにゆっくりと母親らしき人が来て「うちの子が、すみませーん」と男の子を引っ張って行ってしまった。

めいは泣きもせず、訳が分からないというような顔をして立っている。

「めいちゃん膝怪我してるじゃん。痛くない?大丈夫?」

あやはそう言いながら傷口をティッシュで押さえる。

「大丈夫」

めいはポツリと呟いた。

その様子を見ていたのかスタッフの人が救急箱を持ってきて、消毒と大きめの絆創膏を貼ってくれた。

あやはろくに謝罪もせず行ってしまった親子に怒っていたが、めいはただ

「大きい水槽のところに行きたい」

と言った。

結局帰る時間までめいはその水槽に張り付いて魚をずっと見ていた。

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