第3話

夏休みの滞在中は二階の父の部屋で生活することになった。

僕の部屋も祐樹は残しておいてくれていたが荷物はほとんど由香のマンションに運んでしまったのでベッドすらない状態だ。

送ってあった荷物は既に部屋に運んであり、祐樹が後から布団を持ってきてくれた。

八畳ほどの部屋は、壁一面の本棚と本のせいでより狭く見える。

小さいころ部屋に勝手に入り、本棚を上ったのを怒られて以来入ったことがなかった。

父は医者だったので、本の大半は医学書で埋まっている。

棚からひと際目立つ医学書を手に取ってパラパラと中をめくってみたが、専門用語ばかりでそれ以上読む気にはなれなかった。

あの頃はこの分厚い本が格好良く見えて、それを見たくて本棚を上ったことを思い出す。

本を棚に戻して荷物の整理に戻る。

しばらくすると、小さな足音が聞こえて扉の陰からめいが顔を覗かせた。

「ごはんだって」

小さい声でそれだけ言うと、めいは階段を降りて行った。

気が付けば時計は六時を回っていた。

めい続いて居間に行くとハンバーグのいい匂いがする。

一階に降りる時階段の柱に『めい』と書かれた線が増えているのに気が付いた。

僕の小学四年生の時の身長の少し下ぐらいだ。

このころは毎年身長がどんどん伸びて毎年測るのが楽しみだったなと思い出す。

測った年は削れていて見えなかった。何か物をぶつけてしまったのだろうか。

他にも柱には僕や父、祐樹の身長も刻んである。

これを見るに僕が父や祐樹の身長を超えることはなさそうだ。


居間の真ん中にはちゃぶ台おいてありそこに三人分の夕食が準備されていた。

縁側からは涼しい風が入ってきている。

「新太君、ごはんと味噌汁はおかわりあるから足りなかったら遠慮しないで言って」

「ありがとうございます」

「姉さんが、新太君家だとあんまり食べないから沢山食べさせといてってさ」

祐樹は笑いながらそう言った。

「ちゃんと食べてますよ。由香さんが僕よりだべているだけで」

「姉さん昔からよく食べるからな」

その間にめいは黙々とハンバーグを食べている。

そんなにお腹がすいていたのか、とりあえず口に詰め込んでいるような食べっぷりだ。

「めい、慌てて食べると詰まるよ。」

祐樹は呆れた様子で水を台所から持ってきた。

あっという間にめいはご飯を食べ終わると「ごちそうさまでした」と手を合わせて居間の隣の部屋に行ってしまった。

「めいちゃんっていつもあんな感じなんですか?」

「いや、俺とふたりの時はもう少し話したりするんだけどね。新太君と初対面だから緊張してるんだよきっと」

祐樹は少し困ったように肩をすくめた。

「ハンバーグ味どうかな?」

「美味しいですよ。祐樹さん料理上手いですね」

「よかった。ちゃんと料理作り始めたのはめいが来てからだし、めいは何食べても『ふつう』としか言わないから味付けちょっと心配だったんだよね」

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