第36話 初の教習所

突然、バイト先の店長である剛から車の運転免許を取ってきて欲しいと言われた彩葉は「そのうち行こうとは思ってましたが…急ですね?」と剛に言うと、取得して欲しい理由を話した。


「トラックを使ってお客さんのバイクとかも運んで欲しいと思ってよぉ、うちは他県のお客さんもいるから彩葉ちゃんも18歳になったしトラックに乗れた方が便利だろ?もちろん教習代は負担するつもりだし、トラックで遠方に配送してくれた際には給料もアップしてやるよ」


剛にそう言われて考えてみると、確かに悪い話ではない。

田舎に住んでいてはバイクだけでなく車にも乗れた方がいいし、何より負担してくれるのは嬉しい。

彩葉は既に大型二輪免許を所持しているので、技能教習と技能試験のみでスムーズに予約が取れればすぐに取得できるだろう。


「教習代を負担していただけるのは嬉しいですね!わかりました、店長がそう仰るなら教習所に行ってきます!あっ、何気教習所って私初めてですね」


彩葉の場合、自動二輪免許を普通、大型共に一発試験で取得しているので四輪で初の教習所なので少し楽しみでもあった。

彩葉と剛が教習所について話していると、教習所で指導員をしている剛の息子で京香の兄の洸平が「彩葉ちゃん、車の免許取るの?」と聞いてきた、今日は仕事が休みらしい。


「彩葉ちゃんにもトラックでバイクを運んでもらおうと思ってよ、教習代負担するから免許を取ってきてくれって頼んでたところなんだよ」


剛がそう言うと洸平は少し渋い顔をして言いにくそうな感じで現在の免許区分について話した。


「親父は今の免許区分について知らないんだっけ?普通免許でトラックが乗れるのは昔の話で、今の普通免許では総重量3.5t未満で最大積載量2t未満しか無理だから、うちで使ってる2tトラックは今の普通免許では運転出来ないんだよ」


洸平から現在の免許区分について聞かされて「なんじゃ…そりゃあ…」と剛はガッカリしてしまった。

彩葉も免許を取ればトラックが乗れると思っていただけに少し落ち込んでしまった…

洸平が続けて詳しく説明すると、平成19年6月1日以前に普通免許を取得した者は総重量8t未満、最大積載量5t未満の車に乗ることができるので剛と洸平がこの世代に該当する。

また、平成19年6月2日〜平成29年3月11日以前に普通免許を取得した者は総重量5t未満、最大積載量3t未満の車に乗ることが可能で蓮と京香がこの世代に該当する。

普通免許だけで2tトラックや4tトラックが運転できる時代に取得した者達はラッキーと言えるだろう。


これを聞いた彩葉は、自分ももう少し早く生まれてたら上記の免許を取得できたと思うとなんだかズルいという感情になった。


「なんかずるいですね…2000年以降生まれの私達の世代の人達は乗れる幅が狭いなんて…同じ金額払ってるのに不公平ですよ…」


彩葉はムッとした感じで言うと、洸平は諦めるのはまだ早いぞと言った感じでこんな提案をしてきた。


「確かに彩葉ちゃんの仰ることはごもっともだね、同じ料金を払って免許を取るのに乗れる幅がここまで変わってくると今の若い子達からしたら不公平だろう…だがね?普通より高いが総重量7.5t未満、最大積載量4.5t未満の準中型という免許があるんだ!これは18歳から取得が可能なんだ」


洸平が言う準中型免許とは、平成29年3月12日から施行された中型免許と普通免許の間に位置する免許区分で運送業の若返りを目的として設立されたと言えば聞こえはいいが、実際には運送業でメインで使われているのは4t車で準中型免許では運転することはできない為、結局のところ御役所の金儲けである…

とはいえ準中型免許を取れば剛のバイク屋にある2tトラックは運転可能にはなるので、彩葉のように運転する機会がある者は持っていて損はないだろう。


「よし!んじゃ…その準中型?ってやつを彩葉ちゃんが取ればうちの2tトラックに乗れるんだな?そしたら彩葉ちゃん!その準中型免許を取ってきてくれるかい?いつもバイト頑張ってくれてるし、少し高くなるが教習代出してやるからよ」


剛が彩葉にお願いすると「わかりました!私も準中型がいいのでそう言って頂けると助かります」と教習代を全額負担してくれることに礼を言った。


彩葉はスマホで最寄りの教習所のホームページで料金を調べると大型二輪免許所持の者で295000円で学生割引で5000円が割引となるらしい。

剛は今日のバイトは1時間早くあがって教習所に申し込みに行って来ていいと言ってくれたので、あと20分程で今日のバイトは終わりだ。

残り10分となったところで彩葉は作業用のツナギからバイクに乗るときの革ジャンとスキニーパンツに着替えると、剛が教習所に支払うお金を用意してくれた。


「彩葉ちゃん!これが教習代だ、金落とさないように気をつけて行きな」


剛が金の入った封筒を渡すと「ありがとうございます!行ってきます」と彩葉は頭を下げると、外に停めてあるFXのエンジンを始動して自宅から最寄りの教習所へ向かった。

パセオパルケの通りを真っ直ぐ向かうと国道355号線のバイパスが交差する信号を直進して旧国道355号線の交差点を右折して少し走ると教習所がある。

彩葉は教習所内に入って駐輪スペースにFXを停めると、お金と住民票と運転免許証を持って受付に向かった。

受付には、こんな田舎の教習所には勿体ないくらいの都内の高級外車ディーラーで受付嬢をしてそうな美人な事務員の方が担当してくれた。


「こんにちは、高校ですか?学生さんなら5000円割引が適用されますよ、お姉さんはAT限定教習でよろしかったですか?」


美人の事務員さんが高校生への対応に慣れているのか普通免許のAT限定を提示してきたので彩葉は首を横に振って「準中型でお願いします」と言うと、事務員さんは明らかに驚いた顔で高校生の女の子で珍しいと言った感じだ。

まぁ普通の女子はAT限定で取るのが今時だろう…


「か、かしこまりました…すみません、高校生の女の子で準中型免許を取りたいと仰った方はお姉さんが初めてだったので…驚きました。では、お金と住民票と身分証明書になる…運転免許証などは既に持ってますか?」


事務員さんに言われて彩葉は運転免許証を渡すと所持している免許を確認した事務員さんは、また驚いている。

免許区分に普自二の隣に大自二が埋まっている18歳の女子高生なんてほぼいないだろうし、ましてや彩葉は身長148cmと小柄なので誰も大型二輪なんて持っているなんて思いもしない。


「す、すごい…大型二輪免許をお持ちなんですね!小柄なのに本当に凄い!尊敬しちゃいますよ!私は普通二輪免許を取るだけでかなり苦労したので…あっ、すみません!脱線してしまいましたね、大型二輪免許を持ってるので学科試験等は免除となるので手帳と教本のみとなります」


事務員さんはあたふたしながら手帳と教本を渡すと視力検査の準備に取りかかった。

準中型免許は片眼0.5以上で両眼で0.8以上だが、彩葉は視力が良いので余裕でクリアだ。

準中型免許やさらに上位の中型、大型、二種になると深視力検査という立体感や遠近感を検査するちょっとした試験があり、これは不合格になると準中型免許以上を所持している者は現行の普通免許に降格になるので注意が必要だ。

ちなみに準中型5tや中型8tのような旧普通免許を所持してる者が上位免許を取得した際は5t、8tに限るなどの条件が消えるのだが、上位免許を取得しても条件が残っている場合がある。

これは深視力検査などが必要となる免許を取得した際に万が一免許更新などの際に深視力検査が不合格になってしまった時に旧普通免許(5t限定、8t限定)所持者が現行の普通免許まで降格してしまうのを防ぐ措置らしい。

深視力検査も問題なくクリアした彩葉は、別の部屋に案内されて写真撮影を行うと適性試験がタイミングよくこの後に行われるみたいなので彩葉は受けてから帰ることにした。

適性試験は自分の性格や癖などを把握する試験で例え判定が悪かったとしても教習を受けられないということはない。


適性試験を終えた彩葉は、早速明日に教習予約を入れて今日のところはこれで終了だ。


「よし、明日から頑張りますか」


彩葉は自分の頬を両手で叩いて気合いを入れ直すと、駐輪スペースに停めてあるFXのエンジンを始動して帰路についた。


免許を持ってるのに初めての教習ってのも変な話だが、明日から彩葉の教習が始まる。

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