第37話 まさかの再会

教習所に通い始めて2週間程経った彩葉は、今日も教習所にFXで向かっていた。

初教習の時は教官に「大型二輪免許持ってるの!?18歳の女の子で初めて見たよ」と大型二輪免許を所持してる女子高生として指導員達の間でも話題になっていた。

そんな彩葉もキャンセル待ちなどをして、ほぼ毎日のように3時間ずつ教習を受けて校内の教習は終わって路上教習に突入していた。


教習所に着いた彩葉は駐輪スペースに停まっている1台のゼファーに目が留まった。

マフラー、シート、ハンドル、ホイールの基本的な外観の部分がカスタムされてRPM管のバッフル無しの直管が取り付けられたゼファー…

凄い既視感がある…絶対見たことあると思った彩葉はFXを隣に停めて建物内に入ると教習受付スペースに既視感しかない男性がひとりいた。


「あ!これはこれはお久しぶりですね、如月さん!僕のこと覚えてますか?」


彩葉に気づいたのか男性は話しかけてきた、彩葉はあーやっぱりといった感じで頭を掻きながら名前を思い出していた…

そう、男性はモトブロガー系Vtuberで龍宮寺 蘭というネームでやっていてちょうど去年の4月頃に道端で彩葉は男性に話しかけられてバイト先のバイク屋でゼファーのオイル交換をしたことがあり、龍宮寺 蘭というアバターの見た目と中の人のギャップに衝撃を受けてかなり印象に残っている人物だ。


「お久しぶりです、もちろん覚えてますよ…Vtuberをやられてる龍宮寺さんですよね?なんでまたここの教習所にいらっしゃるんですか?」


東京の葛飾区堀切に住んでいると以前話していたのを覚えていた彩葉は疑問に思って聞いてみると、3月末に茨城に引っ越してきたらしい。

理由はYoutuberなどによくありがちな自宅をファンに特定されてしまうのを防止する為なんだという。

龍宮寺もネットの記事で「龍宮寺 蘭は葛飾区の堀切に住んでいる可能性アリ」と情報を見つけてファンが押し寄せて来る前に茨城の羽鳥に引っ越して来たんだそうだ。


「僕の本名は滝沢勇斗って言います、龍宮寺 欄だと誰かに聞かれるとマズイので今後はそう呼んで下さい」


滝沢がそう言うと「確かにそうですね…わかりました」と彩葉は見た目と名前が合ってないと内心思いながら言った。

元々、東京出身だという滝沢は車が不要な環境の生活が当たり前だったので趣味のバイクの免許以外は取得していなかった為、茨城に来てからはバイクだけでは不便さを痛感したらしく47歳にして初めての車の免許を取得しに来たらしい。


「この歳になると新しく免許を取ろうと思っても結構大変なものですね、如月さんも車の免許ですか?」


滝沢が聞いてきたので「そうです、私は準中型免許ですが」と答えると、滝沢はバイク屋だとトラックでバイク運んだりしますもんねーと言った感じで特に珍しがる様子もない。

ちなみに滝沢は普通免許のAT限定らしく、とりあえず日常生活の移動用として軽自動車の購入を検討しているらしい。

滝沢が良ければLINEを教えて欲しいと言うので、特に問題もないので彩葉はLINEを交換した。


これから教習だという滝沢は教官に呼ばれてコースの方に向かっていった。

彩葉もさっさと配車券を取ってコースに向かおうと思ったら入校時に担当してくれた高級外車ディーラーで受付嬢をしてそうな美人事務員の深見さんのタブレットの画面の壁紙を彩葉は見るつもりはなかったが設定されている画像が龍宮寺 蘭で思わず「あっ…それって」と声に出てしまい、深見さんがタブレットの壁紙に設定されている龍宮寺 蘭について熱く語ってきた。


「あっ、如月さん!もしかしてタブレットの壁紙の蘭ちゃんに反応した感じ?めっちゃかわいいよねぇ、龍宮寺 蘭の動画にハマってるの!かわいい娘がバイクに乗ってる姿は最高にエモいのよ!わかる!?如月さん!」


深見さんはヲタク全開で仕事をしているということを忘れながら語ってきたので、「あぁ…そうですねー」と愛想笑いをしながら彩葉は流すと「これから教習なので、また」と言って逃げるようにコースに向かった。


どうやらバイク好きには龍宮寺 蘭は人気らしい…

深見さんは龍宮寺 蘭の中の人がここの教習所にいることを知ったらどんなリアクションをするんだろうか…


「うーん…言えん…これは墓場まで持っていくしかない…」


彩葉は小声で呟くと、準中型の教習車の方へ歩いていった。

まさかの龍宮寺 蘭の中の人である滝沢との再会と、高級外車ディーラーで勤めてそうな美人事務員の深見さんが龍宮寺 蘭のガチファンでしかもかなりのヲタクときた…


これはさっさと卒検まで済ませた方がいいなと思った彩葉は、今日もキャンセル待ち狙いで一気に教習を進めることにした。


「世間って狭いなぁ」

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