第26話 お見舞い

「こっちこっち〜」


声のした方に顔を向けると、愛琉が既に見川町にある病院に先に着いていた。

綺麗に磨かれた真紅のヨンフォアが眩しい、彩葉は愛琉のヨンフォアの隣にFXを停めた。


「このヨンフォアどうしたの?家にあったやつ?」


彩葉もバイクに乗るようになってバイクの車種もだいぶ覚えてきた様子。

愛琉は「そう、私のお気に入りの400ccのバイクだよ」と嬉しそうに話す。

愛流の家には何台もバイクがあるみたいだが、ほとんど400cc超えの大型バイクで16歳の彩葉や愛琉には、制限無しの大型二輪免許の取得は不可なので公道で乗ることができない。

外でずっと話しているのもアレなので、病院の受付でルナのいる病室の番号と場所を聞いて向かった。


「おはよう、怪我の具合はどう?」


彩葉と愛琉がルナの病室に入り、話しかけるとルナは病室のベッドで上半身を起こしてスマホを弄っていた。


「彩葉か、それに二階堂まで…アンタら仲良かったんだな。アタシの方は全治3週間みたいで肋イッてるから痛みはそうだけど呼吸しにくいわ」


ルナはしばらくの間、入院となってしまうが肋骨骨折は肺炎や無気肺のリスクが高まるらしく深呼吸をすることが推奨されているらしい。

ルナが「アタシをボコった奴ら…許さねぇ…」とボソッと呟いているのを聞いてみた愛琉が中学時代との変わりようが気になってたらしく高校でガラリと変わった経緯を聞いた。


「ねぇ東山?アンタ中学の頃は、そんな目立つような奴じゃなかったじゃん?急にそんな変貌しちゃってどうしちゃったの?高校デビューにしても今時気合い入りすぎでしょ」


愛琉とルナは、同じ中学出身でルナの中学時代を知っているので尚更ルナの変貌ぶりが気になっていた。

中学時代のルナはいじめられっ子だったらしく、そんな弱い自分を変えたくて不良のようになってしまったと本人が言っていたが、そんなことをしていたらまた他校の不良生徒に因縁をつけられてしまうだろう。


「二階堂は、アタシがいじめられてたの知らないんだっけ?アタシは根暗だったからクラスの一部の奴らからいじめられてたんだよ…あの時は我慢するしかなかった…絶対に高校に入ったら舐められないようになってやるって」


愛琉は珍しく黙って聞いていた、まさか中学時代のクラスメイトがいじめられてたなんて愛琉は思わなかった。

愛琉は中学時代から容姿やスタイルも良く、クラスの男女から人気も高くルナとは正反対の学校生活を送っていた。

だからと言って愛琉はいじめをするような人ではない、徒党を組んで1人の生徒をいじめるなんて愛琉の趣味ではなかった。


「まさか、いじめられてたなんて思わなかったよ。ごめん…気づいてあげれなくて、教室でそんな雰囲気なかったしさ…」


愛琉が申し訳なさそうに謝ると、アンタは悪くないと言った感じでルナは横に首を振る。

先程の愛琉の言葉がちょっと嬉しかったのか、ルナは愛琉に言った。


「二階堂は悪くない、それにアタシをいじめてた奴らは教室では、あからさまにいじめてる感じを出さないようにしてたし気付く訳もなかったんだ」


ルナはそう言うと、話を切り替えるように「それより紫岡の3人組はどうなった?」と自分をボコボコにした奴らのことを聞いてきた。

愛流が「あぁ、あの3人なら彩葉が仕返ししたよ」とサラッと言うとルナは「は!?」と彩葉の方に顔を向ける、彩葉は少し頬を赤くしてルナから目を逸らして「え、えーっと…」と言った感じで口笛を吹いている。


「実は面白くて、彩葉の喧嘩してる動画撮ったんだけど観たい〜??」


愛琉は悪意のあるニヤケ顔をしながらルナに言うと、「観たい!」とルナは即答する。

彩葉は「ええっ!?アレ観せるの!?」と恥ずかしさで顔が赤面している。

動画を再生すると興味津々でルナは観始めた、彩葉が喧嘩をするなんて想像もつかないのでおふざけ動画だろうと思っていたルナは喧嘩が始まって彩葉が3人組の1人を蹴りで瞬殺してるのを観て言葉を失い動画に釘付けになっていた。

あっという間に2人を倒し、3人組の最後の1人が戦意を失い彩葉に「ごめんなさい」と謝って命乞いをするが彩葉は「謝る相手を間違えてんじゃねぇ!!」と相手が謝る際に下げた頭をそのまま足の甲を後頭部に当てて顔面から地面に叩きつけた瞬間をルナは動画で観て語彙力を完全に失っている。

愛琉は病院なので大声を出さないように爆笑しているが、彩葉は椅子に座って両手を顔に当てながら顔面が蒸発するんじゃないかというくらい赤面させて「もうやめてぇ…」と昨日の喧嘩の時とは別人と思う程しおらしく涙目になっている。

動画が終わってルナはようやく口を開いた。


「ちょ、ちょっと待って…どういう事だ?これは?めちゃくちゃ強いじゃんか彩葉!こんなに喧嘩強かったのか…一体どうやってこんな強さを身に着けたんだ!?」


ルナは彩葉の強さの秘密を知りたくてしょうがなかった。

そりゃあ、誰だって彩葉の容姿を見たらこんな喧嘩が強いなんて思わないだろう。


「彩葉は、こう見えても小学生の頃から護身術として空手やムエタイを習ってきてるみたいでねぇ。それに彩葉は、茨城最強と言われたヤンキーだった如月蓮の妹だし」


愛琉から如月蓮の名を聞いて、ルナは「ええ!?ほんとかよ!?えぇ!?マジで??」と驚きを隠せない。

茨城最強と言われた彩葉の兄である如月蓮は、不良を嗜む中高生なら必ず聞いたことがある名前でその道ではかなり有名な漢だ。

彩葉は相変わらず顔を両手で抑えて恥ずかしそうに俯いている。


「人って見かけによらないもんだな…アタシは舐められないように見た目と雰囲気変えたけど肝心な喧嘩は弱いし…なんかすげぇダセェなアタシ…」


ルナは彩葉の喧嘩している姿を見せつけられて、自分はどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

自分には不良の世界は向いてないんじゃないか、普通の高校生を送った方がいいんじゃないかと思えてきた。

彩葉はルナが考えてることを見透かしたように言った。


「あなたは不良なんか向いてないよ、でも私のバイクを体を張って守ってくれた。ボコボコにされるのわかってたのに…それでも痛みに耐えながら守ってくれたことには感謝してるよ。あなたは強いし最高の友達だよ」


彩葉はルナの肩をポンと叩きながら言うと、ルナの目から涙が溢れる。

愛琉が「LINE交換しない?東山の知らないんだよね」と言うので、彩葉も一緒に交換してもらうことにした。

LINEを交換すると、時刻を確認した彩葉はそろそろ病院を出ることにした。


「それじゃ私達はそろそろ行ってみるね、くれぐれも無理しちゃダメだよ」


彩葉と愛琉は「お大事に〜」と病室を出ると、ルナは手を軽く振って「また来てくれよな」とベッドの上から2人を見送った。


彩葉と愛琉は、バイクを停めてある駐輪スペースまでくると「この後はどうする?」と愛琉が彩葉に言ってくる。

もう昼飯時だし、そろそろお腹も空いてきた。

愛琉が「ラーメン食いたいなぁ」と言うので、彩葉がどういう系のラーメンがいいのか聞いてみると愛流は体型に見合わず二郎ラーメンと言ってきた。

2人はスマホのマップアプリで調べると、愛流が守谷にある二郎ラーメンの店を見つけた。


「守谷に良さげな二郎があるじゃん!ツーリングがてら守谷行っちゃう!?」


愛琉は結構ぶっ飛んだ発言が多いが、今回は彩葉も乗り気だった。


「私もちょっとバイクで守谷に行ってみたかったし、ラーツーでもしますか」


彩葉がそう言うと、早速2人はバイクのエンジンを始動してバイクに跨った。

とりあえず先頭を走ることになった彩葉が、愛琉に準備OKか手で合図を送ると愛琉は指で丸を作りOKと合図を送る。


彩葉は1速にギアを入れて走り出すと、愛琉もそれに続いていく。


さぁ、2人の初ツーリングの始まりだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る