第17話 スーパーカブ乗りの女子高生

まだ夜が明けない午前3時に彩葉はお馴染みの耳障りなアラームで目を覚ます。

準備は寝る前に済ませておいたので、あとは自分が着替えて準備するだけだ。

着替えが終わると忘れ物がないか確認して、戸締まりをして玄関の鍵を閉める。

ガレージからFXを運び出して、エンジンを始動して暖機をする。


出発した彩葉は、フルーツラインに出て朝日方面に向かって走る。

フルーツラインを朝日峠手前まで走ると、峠道側と朝日トンネル側で分岐する信号がある。

峠道側はバイクは通行できないのでトンネルを通過することになるが、彩葉はトンネル内でFXのマフラーがいい感じに反響していて運転していて気分がいい。

トンネルを通過してしばらく道なりに走り、国道125号線と交差する信号を左折した。

左折してすぐに常磐道の土浦北IC入口があるが、今回は高速を使わず一般道で行くことにした彩葉はそのまま125号線を走り続ける。

都和陸橋の信号の所で、国道6号線と合流するので彩葉は東京方面に右折する。

ここは陸橋の両端に信号があり国道6号線と合流する際は坂道を下って国道側に合流する形になる為、渋滞時にはなかなか大変だ。

国道に合流した彩葉は、2車線のバイパスの右レーンを走って流れに沿って走る。

まだ午前4時前なので交通量もなく比較的空いている、渋滞になる前に進めるだけ進もうと思った彩葉少しスピードを上げてひたすら国道6号線を東京方面に向かう。

家を出て1時間半かからないくらいで、彩葉は茨城と千葉の県境の利根川を越えて千葉県我孫子市に入った。

特にバイクも異常はなく、順調だが彩葉の方に問題が発生する。

目が乾いた…Arai classicのジェットヘルメットを愛用している彩葉は初めて県を跨ぐほどの距離を移動してるので走行風で目が乾いてしまう。

彩葉は我孫子市から柏市に入ったあたりまで来ると進行方向の左側にコンビニが現れてくれないかなと考えていた。

すると、有名大手コンビニ店が姿を現したのですぐさまコンビニに入った。

昨日京香が超爽快系の目薬をくれたので、2回ずつ両眼に点眼した。

爽快系の目薬が苦手な人もいるが彩葉は結構気に入った様子、せっかくコンビニに寄ったのでトイレを済ませて飲み物を見ていた彩葉はアメリカ発祥のエナジードリンクを買って外で自分のバイクを眺めながら休憩する。

アメリカ発祥のエナジードリンク、通称魔剤を飲んで自分自身をチャージした彩葉はFXのエンジンをかけて再び走り出した。

出発してから2時間半ほど経って、彩葉は新葛飾橋を渡って東京都葛飾区に入った。

空もだいぶ明るくなってきて、流石に東京は午前6時くらいでトラックなどの物流関係車が多くなってくる。

東京側では国道6号を水戸街道と言うらしい、まぁこの手の名称は地域によって微妙に異なる場合があるが。

彩葉は中川大橋を越えてすぐの青戸八丁目交差点の青砥陸橋を右折して、環状七号線・通称環七通りに合流する。

ここは時間帯によってはかなり渋滞するが今は順調に流れている、今のうちに進めるだけ進もう。

環七通りをひたすら走り、彩葉は国道20号線と交差する大原陸橋のある交差点を右折して甲州街道を八王子方面に向かう。

首都高の永福入口付近で多少混み始めてきたが、特に時間ロスをするほどでもない。

それにしても東京の道路は信号の間隔や道幅も狭い所が多い、バイクだとあまり気にならないが車だと走りにくい箇所は出てくるだろう。

しかし東京を自分のバイクで走ってると、まるで都会の人になった気分で悪いものではない。

東京というと電車などの公共交通機関を使うイメージが強いがあえて車やバイクで東京に来るのもいいだろう。

高尾山の付近まで来たところで、彩葉はそろそろ給油しておこうと思って休憩も兼ねてスタンドに入った。

ここは有人のスタンドなので、店員にハイオク満タンと伝えてキーを渡すと店員はバイクとオーナーのギャップに少し戸惑ってはいたが手際よく給油を終えると彩葉に話しかけてきた。


「お姉さん、渋いバイク乗ってますね!今日はどちらまで行かれるんですか?」


彩葉は「山梨です」と答えると、店員は「お気をつけて!ありがとうございました!」と笑顔で見送ってくれた。

高尾山ICの入口を過ぎて、大垂水峠を進んでいく。

ここの峠道はいい感じのリズムで走れて楽しいと思った彩葉は、前傾姿勢になり車体をバンクさせながらコーナーを抜けていく。

ネイキッドバイクのメリットは、街乗りでは楽な乗車姿勢で乗れて峠などのテクニカルセクションでは少し腰を引いて前傾姿勢を取れば攻めの走りも出来るところだろう。

腕のあるライダーならネイキッドでSSを抜いていくシーンはザラにある。

相模湖まで来た彩葉は、少しバイクを停めて湖を見たかったけど時間が限られてるので停まらずに走り続けた。

山梨県に入った彩葉は、休憩をせずにそのまま上野原、大月、勝沼と通過してついに甲府まで来た。

とりあえず山梨の中心部まで来たので、そろそろ休憩をしようと思った彩葉は甲府を過ぎたあたりの甲斐市のコンビニに入った。

トイレ休憩を済ませて、ミルクティを買ってバイクを眺めながらミルクティを飲んでいると1台のスーパーカブが入ってきた。

旧型のカブでノーマルだがピカピカに磨かれたカブだなーと思った彩葉は運転手を見て驚いた、白のジェットヘルメットとグリップスワニー製のグローブを外したカブのオーナーは彩葉と同じくらいの歳のボブヘアの女の子だった。

山梨ではスーパーカブに乗る女子高生がいると聞いたが見た感じあの女の子は女子高生だろう。

今時の女子高生にしては、地味な感じだが渋い趣味をしてるなーと見てると誰かを待っている感じだった。

数分くらい経ったくらいで1台の水色のカブが入ってきた、あのボブヘアの子が乗っているカブより少し小さい…リトルカブというやつだろう。

たぶんボブヘアの子の友人なんだろう、そう思ってリトルカブに乗ってる女の子がバイクからおりた瞬間、彩葉は思わず「ちっさ!!」と声を出してしまった…聞こえはしなかっただろうが…

リトルカブのオーナーの女の子は、彩葉が小さいと思うほど小柄で見た感じ140cm…下手したら140cmもなさそうな感じだった。

彩葉は自分と同じくらいの歳の子でしかもバイクに乗っている自分より小さい子を初めて見て今日一番の驚きだった。

どう見ても小学生がバイクに乗ってるようにしか見えないが、彩葉と違いバイクが可愛らしいリトルカブなので似合ってるなーと思った。

水色がドンピシャに似合うリトルカブの女の子とボブヘアの女の子は、出発する気配がない。

どうやらもう一人待ち合わせをしてる友人でもいるみたいだ。

彩葉は、時間に余裕はあるし面白い二人組が待つもう一人の友人の存在が気になったので待機してみることにした。

10分くらい経過したが、まだ来る気配がない…

カブ乗りの女の子達は「アイツは何やってんだよ!」と言わんばかりな険しい表情をしている。

彩葉は随分と時間にルーズな知り合いだなーと苦笑いをしてると、遠方からビックシングルバイクのマフラー音が聞こえてきた。

彩葉は「すごい音!私のFXのトーキョー鉄管に負けてないんじゃ!?」と思ってカブ乗りの子達を見たら、知り合いがようやく来たと言うような顔をしていた。

え?この音のバイク乗りが待っている知り合いなの?2人共カブ乗ってるから、てっきりもう一人もカブ乗りなのかと思ったけど中型バイクの直管系の単気筒乗りだろう。

音が近づいてきて爆音の正体が姿を見せた。

彩葉はまた驚かされた、なんと音の正体はハンターカブだった。

CT110の旧型のハンターカブで青いカスタムパーツが施されかなりチューニングされていて、マフラーはなんとチタン製…なるほど…それであの音なら納得だ。

それにかなり高回転域でパワーが出るようにセッティングされているんだろう、アイドリングが不安定気味な感じだ。

ハンターカブのオーナーの女の子は黒髪のロングヘアでかなり背が高い、愛琉と同じくらいだろうか?

服装がツナギで、お世辞にも女っ気が感じられない子だけどかなり美人な顔立ちだ。

水色がかった雰囲気のリトルカブの女の子にどんだけ待たせる気だ!と言われてる感じで、それに対してごめ〜んと軽い感じで黒髪ロングの長身の女の子は謝っていた。

カブ乗りの3人は少し話し合った後に、各々のカブのエンジンをかけて長身のハンターカブの子が先頭、次にリトルカブの女の子、ボブヘアの女の子のカブが最終尾を走ってコンビニを出ていった。

めちゃくちゃ個性が強い3人組で面白いものが見れた、愛琉に土産話として茨城に帰ったらしてあげようかな?バイク乗りには変わり者が多いものだ。


さて、いい感じに休憩も取れたので彩葉もFXのエンジンをかけてコンビニを出て韮崎方面へ走り出した。


なんかあの3人組とは、また何処かで会いそうな気がするなぁと思う彩葉であった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る