第15話 CB400SF

彩葉と教室で別れて、愛琉は一人で校門を出ると教習所の迎えのワゴン車に乗り込む。


「二階堂さん、学校お疲れ様」


送迎の運転手と愛琉は仲が良く、いつも迎えにくるのは飯田という運転手だ。


「飯田さん!いつもありがとうございます!」


愛琉の容姿の良さもあってか、飯田に気に入られている。

愛琉が通っている高校から教習所までは車で5分程度なので徒歩でも行けるが、いつも飯田に迎えに来てもらっている。

教習所に着くと教習券を受付窓口で貰って、バイクのコースに向かう。

愛琉は肘当てとプロテクターを身に付けると指導員が来るのを待つ。

今日の技能教習は、愛琉を含めて3人だ。

しばらくすると指導員がやってきた。


「それでは普通二輪の教習の皆さん!体操を始めます」


怪我防止の為にしっかりと準備体操をすると、ヘルメットを被りグローブをして各々バイクにつく。

教習に使う車種は、ほとんどの教習所で導入されているCB400SFだ。

極端に特化したステータスがないバイクなので初心者にも扱いやすく、教習車としての需要もある。


「今日は、前回に引き続き基本的な外周走行にS字クランク、スラローム、一本橋と一通りの流れを行います」


愛琉を含めて3人の教習生は、周囲の確認をしてバイクに跨がりミラーの調整をしてキーをONにしてエンジンを始動する。

順番は年齢順で最年少の愛琉は1番後ろからついて行くことになる。

外周走行、S字クランクとやり課題のひとつの一本橋にきた。

指導員がお手本として最初にやるので後から教習生が続く。

1番歳上の30歳の男性は橋の途中で落ちてしまい、「ニーグリップが甘い!上半身に無駄な力が入っている!」と指導員に言われている。

2番目の28歳の男性は、指定タイムの7秒で通過する。

愛琉の番がきた、平均台手前の停止線で一旦停止して左右確認した後に1速で走り出す。

愛琉は父親にサーキットで教えを受けているので、流石の安定感を披露して12秒で通過する。

一本橋を3往復ほどした後に、次にスラロームに向かう。

一本橋同様に指導員がお手本を見せると、続けて30歳の男性からスラロームを通過していく。

普通二輪の教習生は、ほとんどがバイク未経験者の為スラロームをリズミカルに通過する者はごく僅かだ。

30歳の男性は、スラロームがあまり得意ではないのか10秒ほどかかって通過した。

普通二輪の場合は8秒以内という指定がある為、これでは減点になる。

指導員からはもう少し速度を出して車体を寝かせていくイメージと説明を受けている。

2番目の28歳の男性は8.8秒であともうひと押しと言った感じだが、あと少し練習をすれば指定の8秒以内で通過できるようになるだろう。

最後は愛琉の番だが、指導員と歳上の2人の教習生の度肝を抜く走りを披露する。

1速で走り出した愛琉はすかさず2速に上げて、腰を引いてしっかりとニーグリップとした。

そのまま軽く前傾姿勢になりスラロームに進入した愛琉は先程の男性2人とは比にならない速度で左右交互に車体をバンクさせて華麗に通過してみせた。

タイムはなんと5.6秒だ。


「二階堂さん、すごいねぇ!文句のつけようがないくらい完璧だよ」


指導員に褒められた愛琉は「あざまーす!」と若者特有の返事をすると、他の教習生の男性2人から「二階堂さんは教習以外でバイクに乗ってたの?」と聞かれた。

愛琉は、父親が趣味でサーキットを走るのでそこで乗り方を教わったと話すと「なんかすげぇ親子だな…」と男性2人は苦笑いしていた。

スラロームの練習が終わると次は急制動の練習をした。

男性2人はどこかぎこちない感じだったが、愛琉だけはあっさりこなしてしまう。

教習を受ける意味があるんだろうか…


一通りの教習の課題をやったところで、本日の技能教習は終わった。

愛琉を含めた教習生3人は、「お疲れ様でした!」と挨拶をすると少し3人で今日の教習内容のことを話した。


「今日は二階堂さんが圧倒的に上手かったねぇ…男の僕達がなんか情けなく思えたよ」


男性2人は職場の同僚同士らしく、職場でバイクブームが来ていてその流れで2人で免許を取りにきたらしい。

愛琉はこれから学科の講習だが、男性2人は普通自動車の免許を所持しているので免除となる。

それを聞いて愛琉は「いいなぁー、私は学科免除になるのが羨ましいですぅー」と嘆いている。

3人で笑い合って話していると、学科の時間になったので愛琉は2人と別れた。


愛琉は学科が行われる教室に向かう最中に彩葉とツーリングしている自分の姿を想像した。

緩やかな峠道を走り抜ける自分達を想像して、思わずニヤけてしまう。

早く免許が欲しい、そう思ったら嫌いな学科も頑張れそうな気がした。

学科も残り僅かだ、愛琉は目を瞑り頬を両手で叩いて「よしっ!」と気合いを入れると教室へと入った。


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