第13話 家系ラーメン

帰りのホームルームが終わり下校の時間となった頃に彩葉は無性にラーメンが食べたくなった。

晩飯はラーメンにしようかな?と思い、帰りはスーパーに寄ってインスタントラーメンでも買って帰ろうと考えていると「彩葉!」と名前を呼びながらこっちに女子生徒がやってくる。

彼女は、ついこの間バイクを通じてLINEを交換して連絡を取り合う仲になった二階堂愛琉。


「何を考えてたの?」


腕を組みながら考え事をしている彩葉に愛琉は聞いてきた。


「なんか無性にラーメンを食べたくなったんだけど、何のラーメンを食べるか考えてたんだよ」


愛琉は、それならばーと言った感じで見和にある横濱家系ラーメンの店を紹介する。

オススメは塩チャーシュー麺らしいが、彩葉は元々塩派なのでちょっと気になった。

見和なら学校からもそんな遠くないし、バイクならば細道を抜けて行ける。


「それじゃ愛琉のオススメのその店に行ってみる、愛琉も一緒にくる?」


彩葉が誘うと、愛琉は横に首を振って「今から初教習なんだー」と言ってそろそろ迎えのワゴン車がくるらしく愛琉は教室を出ていった。

そうだった、父親の許しをあっさり得て教習所に入校したんだった。

彩葉は教えてもらった店の場所をスマホのマップで確認すると、外の駐車場まで向かう。

そういえば店の雰囲気を聞くのを忘れていたが、女一人で行っても問題ないのだろうか。

人によっては一人でラーメンを食べに行くのに抵抗のある女性もいる、まぁ彩葉はそこまで気にしないのだが。


駐車場に着くと、彩葉は早速FXのエンジンをかけて暖機をする。

ルートは国道50号線を河和田町南の交差点を赤塚駅南中央通りに向かって、梅が丘通りを見和方面に向かった方が単純だろう。

彩葉は、バイクに跨がるとギアを1速に入れて走り出した。

まだ時間は17時になっていないので、退勤の帰宅ラッシュにぶつかることはない。

道路も比較的空いていたので13分程で愛琉の言っていたラーメン屋に着いた。

バイクに乗ったら腹が減ったのか、足早に店内に入ると一人の男性に声をかけられた。


「あれ?お嬢ちゃん、もしかして免許センター近くの定食屋で会った子かい?」


彩葉は一瞬固まったが、すぐ思考回路を整理して免許を取りに行ってた時に入った定食屋でアイスをくれて、食事の代金まで支払ってくれた土方仕事のおじさんとわかった。


「その節は食事の代金まで支払っていただきありがとうございました」


彩葉は礼を言うと、おじさんは「あーいいよ、いいよ」と笑っていた。

店員が「2名様ですか?」と一緒に来たと思ったのか、そう聞いてきたので彩葉とおじさんは顔を合わせ「よかったら一緒に食うかい?」とおじさんは彩葉に聞くと「構いませんよ」と彩葉は返事する。

2人は塩チャーシューの麺大盛りを頼み、彩葉は麺硬め、味濃いめ、油多めのガッツリおデブ食仕様で注文する。


「いやぁ…若いっていいねぇ…、俺は医者に油っこいものや味の濃いものは控えるように言われてるから薄めと少なめだなー」


それならラーメン屋なんて来ない方がいいのでは?と思った彩葉だったが、あえてツッコまないでおこう。

しばらくすると注文した塩チャーシュー麺が運ばれてきた。

うずら卵、ほうれん草と家系ラーメンにはお約束のコンビはしっかり入っている、彩葉は麺をひと口啜る。

安定に美味い、かなり濃い感じと油が多い感じはするが塩なので程よくマイルドになっていて良い感じに食べやすい、これは癖になりそう。

ちなみに今回もおじさんの奢りだ。

2人はあっという間に完食して、胃を休ませるのにしばらく店の中でお喋りしている。


「そういえばお嬢ちゃんは、何歳なんだい?」


彩葉は「16歳です」と言うと、おじさんは驚いていた。

てっきり中学生だと思っていたらしい、まぁ小柄で童顔なのでいつもそう見られるから慣れてるが…

話をしていると、おじさんには彩葉と同い年の姪っ子がいるらしく水戸の高校に通ってるらしい。


話をしてたらおじさんの携帯が鳴った。

着信相手を見て慌てた様子で急いで出ると、ジェスチャーで「ちょっと悪いね」って言った感じで店の入口あたりに移動して電話をしている。

数分くらいするとおじさんが戻ってきた。


「いやー、実は姪っ子を迎えに行くことになってたんだけどラーメンとお喋りに夢中ですっかり忘れててね、姪っ子が歩いてここまで向かっててそろそろ着くみたいなんだよ」


おじさんがそう言うので、彩葉もそろそろ帰ることにした。

店員さんにごちそうさまと挨拶すると2人は外に出た。

すると女子高生らしき1人の女の子がこっちに歩いてくるのが見えた、随分と背が高くてスタイルが良い人だなと思った瞬間、彩葉は思わず「え!?」って声が出た。


「あれ!?なんで彩葉と健二叔父ちゃんが一緒にいるわけ?2人知り合いなの?」


姪っ子の正体はなんとついこの間LINEを交換して親しくなった愛琉だった。

これには、愛琉の叔父も驚きを隠せなかった。


「え!?愛琉とお嬢ちゃんは友達だったのか!?いやぁ世間って狭いなー」


愛琉の叔父・健二は、教習所まで迎えに行く予定だったのだが偶然にも彩葉と再会して話し込んでいて愛琉のことをすっかり忘れてしまっていた。

愛琉は「信じられないんだけど!」と健二に言いつつ、彩葉には「ラーメンなかなか美味かったでしょ?」とそこまで怒ってはいない様子。

それより彩葉と健二がどうやって知り合ったのか気にならないのか?と彩葉は思った。

彩葉と健二は自己紹介が実はまだだったので改めて自己紹介をする。


駐車場に停まってたFXを見ていた健二が「懐かしい!フェックスだ!渋いなぁ」と言いながら誰のだろう?と一人で喋ってる姿を愛琉が見て彩葉に聞いた。


「彩葉がFX乗ってること叔父ちゃんは知らないの?」


彩葉は「何も言ってないよ」と返事すると、2人は顔を合わせて何か企んでるかのような笑みを浮かべて健二に近づいて愛琉が言った。


「そのフェックスのオーナー知ってるよ」


健二がマジで??と食いついてきたので、愛琉が「叔父ちゃんもよく知ってる人だよ」と言うと健二は腕を組んで誰だろうと呟きながら考えていると、彩葉がキーを取り出しハンドルロックを解除する。

健二が「えっ?えっ?」と状況を把握できてない感じだったので、彩葉はそのままエンジンを始動してみせた。

トーキョー鉄管の音が響き渡る。


「うおっ!すげー音!まさか!?フェックスのオーナーってまさか彩葉ちゃんかい!?」


彩葉は笑みを浮かべながら頷くと、健二は「ギャップがすげぇ…」と語彙力を失っていた。

彩葉は健二にラーメンを奢ってもらったことを礼を言うと、バイクに跨ってギアを1速にいれた。


「それじゃ、また明日学校でね」


彩葉が愛琉にそう言うと「うん、気をつけて」と愛琉は手を振った。


彩葉は車が来てないことを確認すると、道路に出て加速して行った。

マフラーの音が響き渡る。


「あの子、バイクに乗るとまるで別人だなぁ、カッコいいじゃん」


健二は、走り去っていく彩葉に見惚れていた。


「私も早く免許取らないと!」


愛琉も教習を頑張ろうと思った、彩葉と一緒に走る為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る