第8話 難関・一発試験
休日や学校終わりの限られた時間を有効に使って、徹底的に練習をした彩葉は、練習初日の頃と比べ一週間ほどでかなり上達していた。
発進時のクラッチ操作やシフトチェンジなどはかなりスムーズになり、スラロームも7.5秒と8秒以内で通過できるようになり一本橋も11秒で通過できるようになっていた。
急制動もしっかり40キロキープをして、11m先の停止位置にスマートに停車できるようになった。
学科試験の勉強の方も順調そうだ。
学校の方は偶然にも創立記念日と土曜日の振替休日が重なり2日連続で平日休みを取れた為、その日に一発試験を受けることにした。
試験当日、必要な書類(住民票など)を忘れてないか確認して家の戸締まりをして外に出ると京香の父・剛が迎えにきていた。
今日は京香は仕事なので試験の2日間は、剛が送迎してくれることになってる。
こういう時に自営業は自由が利いていいものだ。
「おはよう!忘れ物ないかい?」
彩葉はペコリと挨拶すると「大丈夫です。」と言うと剛のハイエースの助手席に乗る。
剛は茨城町の試験場に向かって車を走らせた。
「学科試験の勉強はバッチリかい?俺は勉強大嫌いだったから学科は地獄だったな」
剛は自分が学科試験の時のことを面白おかしく話している。
それを聞いて彩葉は笑って聞いていたが、そうしてる間に試験場に到着した。
運転免許センター内に入ると番号で種目別になっていて免許更新、学科試験、免許追加などのコーナーがある。
彩葉は学科試験の受付を済ませると、まずは適性検査で視力検査、色彩識別検査、聴力検査、運動能力検査をやる。
彩葉の視力は両目共2.0なので全く問題なくクリアし、続けて色彩識別もちゃんと認識できている。
聴力検査は、検査員とのやり取りが問題なくできていればOKで、運動能力も大丈夫だ。
無事、適性検査が終わり学科試験が行われる試験会場へと向かう。
バイクの練習の合間に、ひっかけ問題などの対策をしっかりしてきたので学科試験には自信があった。
学科試験まで時間があるので最後に簡単に復習した。
しばらくすると学科試験担当者が入ってきたので勉強に使った問題集をリュックの中にいれる。
試験は正か誤で答えるいわゆる○×問題で、彩葉は解答用紙に答えを書いていく。
試験が始まって30分ほど経つ頃には、彩葉は解答を全て終わらせていた。
無事、学科試験が終わり昼休憩の後に合格者が発表される。
彩葉は発表はまだだが学科試験が終わった安堵で急にお腹が空いてきた。
たしか免許センターの近くに定食屋が何件かあったことを思い出して、徒歩で行くことにした。
免許センターの目の前にある丁字路の信号を左に曲がってすぐの所にボリュームがありそうな定食屋があった。
彩葉は見かけによらず結構食べる方で、大食いには嬉しい。
店内に入ると昼時と言うこともあってそれなりに客がいたが、それほど混雑してる程でもない。
店の雰囲気は昭和や平成初頭を思わせるような感じで昔ながらの定食屋と言った感じだ。
彩葉は座敷に座ると店員がお冷とおしぼりを持ってきた、これもまた昔ながらって感じだ。
店員が「注文はお決まりですか?」と言うので彩葉はメニューを指差しながら言った。
「とんかつ定食、ご飯大盛りで!」
そう伝えると「少々お待ちください」と言って店員は厨房の方へ戻って行った。
店を見渡すと自分の他に土方仕事の人や近所の年配の客がちらほらいた。
身長149cmでサラサラのセミロングの童顔な彩葉は変に浮いていた。
傍から見たら小学校高学年か中学生くらいにしか見えないらしく、土方仕事の三人組が「あの女の子、小学生?いや中学生かな?」と小声で話してるのが聞こえてきた。
そんな小さい声で話しても聞こえてるんだけどって思いながら彩葉は聞いていた。
まぁ年齢より下に見られるのは慣れてるので気にしてないのだが…
注文して10分くらいでとんかつ定食がきた、かなりのボリュームでお腹がペコペコの彩葉には最高のご馳走だ。
「いただきます」
そう言うと彩葉はとんかつを食べ始める。
これは美味しい、昔ながらの定食屋でよくある家庭的な味でホッとする。
食べ始めて15分くらいでとんかつ定食を完食した。
彩葉の食べっぷりを見ていた土方仕事の三人組の一人が話しかけてきた。
「お嬢ちゃん見かけによらず良い食いっぷりだなぁ、このチョコアイス良かったら食べるか?」
土方仕事の一人のオジサンがデザートのアイスを注文したはいいが、歳のせいか脂っこい物を食べたら胃もたれしてデザートを食べる気がなくなってしまったらしい。
彩葉はありがたく頂くことにした。
「ありがとうございます!ありがたく頂きます」
彩葉はチョコアイスをタダで食べれて得した気分になった。
土方仕事のオジサンが「若いっていいなー、存分に若い時代を楽しめよ」と言うと三人組は会計を済ませて退店していった。
アイスを食べ終えた彩葉は、会計を済ませようとすると店員さんが「先ほどの三人組のお客様が一緒に払って行かれましたよ」と言うと彩葉は驚いていた。
「ごちそうさまでした」と言って店を慌てて出て、周りを見渡してみたがさっきの三人組は見かけなかった。
せっかく料金を払ってもらったのでお礼を直接言いたかったんだが…まぁ仕方ない…
また何処かで会うかも?って思いながら彩葉は免許センターへ戻る。
あと10分程で合格発表がされるので、彩葉は椅子に座って待つ。
周りでは「お願い!受かってて!」や「やばい落ちたかも」と友人同士で会話してる者達もいた。
10分ほど経ったので、頭上にあるモニターを確認すると合格者の受験番号が表示されている。
彩葉は自分の番号を探すと、しっかりモニターに表示されていた。
とりあえず学科試験は合格だ。
ホッとしてるのも束の間、ここからが本当の試練だ。
教習所を卒業すれば合格率は90%以上だが、一発試験は10%〜15%…下手したら数%の可能性だってある。
彩葉は技能試験の予約をしたので、今日はこれで終わりとなる。
迎えに来ていた剛のハイエースの助手席に乗り、剛が経営するバイク屋へと戻る。
洸平が仕事から帰ってきてたので、技能試験の時の注意点や合図や目視など試験の時の大幅な減点ポイントを教えてもらった。
試験コースなども事前に写真を撮って何度も確認した。
とりあえずやることは全てやった、後は本番で自分の持ってる技術を発揮するだけ。
技能試験当日、彩葉は待機室で普通二輪のゼッケンを着けて試験官からの指示を待っていた。
金銭面で余裕のない彩葉は、何がなんでも合格しなければならない。
今日は彩葉ともう一人別の受験者がいるので2人が技能試験を受ける。
名前を呼ばれた彩葉は、発着所の方に向かう。
教習所の卒業検定より審査が厳しいので、乗り始める最初の手順から洸平に教わった通りに周囲の安全確認などをしっかりやりつまらないミスや減点などはないように慎重に試験に臨んだ。
ミラーなどを調整を終えたらエンジンを始動する。
ちなみに試験車はXJR400で、練習で使っていたCB400SFとはメーカーが違うためクセが少し違うが少し乗れば大丈夫だろうと思った。
コースの確認は何度もしたし、合図のタイミングもしっかり確認した。
ギアを1速に入れて、周囲を確認した彩葉は洸平からバイクは車種によってクラッチの感覚が違うので最初は半クラを探るようにゆっくり繋ぐようにと言われたので言われた通りに発進してコースに出た。
まずは外周を一周慣らし走行があるので、シフト、ブレーキ、スロットルの感触を確かめておく。
一周してきた所で、採点が始まって技能試験がスタートする。
外周をするとストレート区間で50キロまで加速して減速して右のカーブを曲がる。
彩葉はストレート区間でスロットルを開けて加速して2速〜3速、4速とシフトを上げて減速ポイントでしっかり落としてギアをすかさず2速に落としてゆっくり右カーブを曲がる。
ミラー、合図、目視も大袈裟なくらいしっかりやりつつ第一課題のスラロームにきた。
2速のままスラロームに進入した彩葉は、練習の時のように加速、減速を繰り返して交互にバンクさせながらジグザグと通過していく。
乗り始めて慣れてしまえば試験車のXJR400は、彩葉は乗りやすかったらしくスムーズにスラロームをクリアした。
次に第二課題の坂道発進のポイントで一時停止する。
周囲を確認してギアを1速に入れて、後輪ブレーキをしっかり踏み車体が後退しないように注意する。
スロットルを開けつつクラッチをゆっくり繋いでいき車体が進み始めたら後輪ブレーキを戻しつつクラッチを繋いでいく。
坂道発進もスムーズに成功した彩葉は、警音器を一回鳴らして下り坂をくだって一本橋のポイントに向かう。
一本橋は1番得意な彩葉は、10秒で危なげなく通過して続けてS字クランクを慎重に通過して最後の課題である急制動へ。
急制動ではしっかり速度を40キロをキープして、11mの所でしっかり停車することが求められる。
急制動もとりあえず問題なく成功だ。
とりあえず課題は大幅減点されるようなミスなく終わり、気を抜くことなくスタート地点へと戻る。
ギアをNにしてエンジンを切り周囲をしっかり確認してバイクから降りてサイドスタンドを立てる。
ここでうっかりバイクを倒してしまうとその時点で失格となるのでつまらないミスをしないように注意したいところ。
一発試験で初見で完走するのは、まず無理なのだが彩葉は初見で完走してしまった。
指導員をしている洸平の教習所の正しい手順の乗り方をそのまま実践したので、彩葉には我流の癖などがない為それが良かったのだろう。
別名で飛び込み試験とも言われるこの試験は、大型免許や大型二輪免許など上位免許へのステップアップをする際に教習所に通わずに試験を直接受けて格安で取得することを目的とする場合が多い。
その為、公道に出てから自己流の運転方法や癖などが身体が覚えてしまっているので、いざ一発試験を受けても正しい乗り方や手順を忘れてしまっていることが多くて不合格になることがほとんどだ。
「如月さーん!」
試験官が彩葉のことを呼びながら歩いてきた。
彩葉も「はいっ!」と返事をしながら試験官の方へ視線を向ける。
試験官が資料を片手に合否を発表した。
「如月さんは、合図や目視をしっかりやられていてスラロームが7.2秒、一本橋が10秒で急制動もしっかり速度キープして停まれてました。総合的に見ても基本に忠実で大幅な減点はありません、合格です!」
合格と言われた瞬間、え?こんなあっさり?って感覚になったが時間差で嬉しさが込み上げてきた。
試験官が「取得時講習の予約をしてください」と言うので窓口コーナーに行くと日曜日に講習を受けることになった。
取得時講習が終われば免許交付となる。
免許センターの外に出ると剛が迎えにきていた。
技能試験を合格したことを伝えると、「おぉ!さすが啓司の娘だなぁ!」と試験を受けた彩葉より大喜びしてた。
試験で疲れたんだろう…
助手席で彩葉は寝てしまった。
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