第7話 スラロームと一本橋
バイクの操作に慣れてきた彩葉は、次のステップに進んだ。
自動二輪免許所持者なら誰しも経験があるスラロームと一本橋の練習だ。
普通二輪のスラロームのタイムは8秒以内、一本橋が7秒以上と既にバイクで公道を走ってるライダーにとってはそれほど難しい内容ではないが免許を持っていない彩葉には最初はなかなか厳しいだろう。
まずはスラロームから練習していくので、洸平がやり方を説明する。
スラロームはカラーコーンを進入のところに2本配置、等間隔で5本ほど配置、出口にまた2本を配置する。
私有地で個人的に練習してるので簡易的な感じだが…
やり方はカラーコーンをジグザグにリズミカルな感じで通過するが加減速が重要になってくる。
ギアは2速固定でニーグリップをして、目線は少し先を見据えておくのがポイントだ。
洸平がお手本を見せると言うので彩葉は手順をよく確認しておこうと思った。
洸平はバイクのエンジンを始動しギアを1速に入れて、手慣れてる感じでスムーズに発進すると素早く2速にあげてスラロームに進入していく。
加速、減速、加速、減速を繰り返しながら車体交互にバンクさせてリズミカルに通過していく。
京香がタイムを計っていたが、6.2秒だった。
彩葉はポカーンと口をあけて見ていた…
上手すぎて全然参考になる感じがしないと思った彩葉、まぁ普通二輪免許を持ってる方なら教官のお手本を見て同じことを思った方もいるだろう。
洸平に「やってみよう」と言われ、安全確認してバイクに乗車しクラッチを握りギアを1速に入れて走り出してギアを2速にあげた彩葉は、スラロームに進入したが全然リズミカルにできる気がしない…
トロトロと通過した彩葉のタイムは11秒ちょっと…
洸平がダメな点を説明する。
「彩葉ちゃんはニーグリップがしっかりできてないから車体をうまくコントロールできないんだ、バイクは腕で傾けるんじゃなくて下半身を使って車体を寝かせていくんだよ」
慣れないうちはどうしても腕で曲げようとするから、最初は腕に力が入り筋肉痛になる傾向があるがバイクは上半身は楽にして下半身でコントロールしていく感じだ。
彩葉は洸平に言われた通りにニーグリップをしっかりして腕ではなく下半身でコントロールしていくことを意識しながらギアを1速に入れて走り出して、すかさず2速に入れてスラロームに進入していく。
速度は出ていないがさっきよりは形になってきた。
京香がタイムを計っていて9.7秒だった。
「タイムはまだまだだけどさっきより良くなったわね」
それからひたすらスラロームを繰り返した。
20分ほど繰り返してやっていると、タイムは8.8秒と9秒台を切るほどに短時間で上達した。
洸平は身長140cm台の小柄で細身の女性でここまで飲み込みが早い人を教えたのは初めてだった。
京香は思わず「私が教習所に通ってた頃より上達が早い」と嬉しいような悔しいような感覚だった。
彩葉は運動神経が良くて、幼少の頃は女の子が遊ぶようなことはしないで木登りや鉄棒など男の子並に外で駆けずり回っていることが多かった。
自転車も最初から補助輪無しで誰にも教わらず乗れてしまうほどで両親も驚くくらいだった。
彩葉の父・啓司は、若かりし頃に独学でバイクの乗り方を覚えて、当時難関と言われた中型限定免許と呼ばれたいわゆる中免(現・普通二輪免許)の限定解除審査試験(現・大型二輪免許)を一発試験で一発合格してしまう程のセンスの良さだったと京香と洸平の父・剛は言っていた。
彩葉は見事にその遺伝子を受け継いでいるようだ。
少し休憩をすることにした京香は、10分間の休憩にすると彩葉に伝える。
休憩したあとは次は一本橋の練習だ。
一本橋のやり方はニーグリップをして、視線は先を見て肩の力を抜いてリアブレーキやクラッチを使い速度を微調整しつつ7秒以上で通過することだ。
中型バイクならリアブレーキだけでほとんど調整出来てしまうのがほとんどである。
洸平にお手本を見せてもらいアドバイスをもらった彩葉は早速、父譲りのセンスの良さを発揮する。
ギアを1速に入れて発進した彩葉は平均台に登ったあとにリアブレーキで速度を落としつつバランスを取りながら通過し、初見で10秒のタイムを出して余裕でクリアしてしまう。
これには洸平や京香も思わず笑っていた。
その後も何度か一本橋を練習し、結局1度も落ちることなく指定タイム以上を出して一本橋の練習は終わった。
その後は苦手な箇所を重点にやり、この日の練習は終わった。
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