第1章 高校1年生編

第3話 入学式

耳障りなくらいうるさいスマホのアラームが鳴り響いて彩葉が目覚めた。

春休みが終わって今日から入学式なわけだが、不思議と緊張はしなかった。

八郷に住む彩葉がなぜ水戸市にある高校を選択したかと言うと単純に県庁所在地の街に行ってみたかったからだが、ドが付くほどの田舎育ちであまり主要の街中に行ったことのない不安の方が正直勝っていた。

両親を早くに亡くし、兄の蓮と2人暮らしだったが蓮の転勤を機に高校生からは1人暮らしとなった。


朝食を簡単に済ませ新しい制服に袖を通した彩葉は、朝の準備を終えて玄関から誰もいない家に「いってきます」と言って入学式が行われる水戸市の高校へと向かう。

とにかく彩葉が住む石岡市の旧八郷町は、運転免許を持ってない者には便が悪い。

彩葉は家から徒歩で10分くらいのバス停へと向かった。

時間を調べておいたので予定通りバスが到着する。

このバスで今度は羽鳥駅と向かってそこから電車で水戸方面に向かう。

羽鳥駅に向かう道中でアクシデントが発生した。

なんとバスがバーストして走行不能となってしまった、彩葉は「なんでこんな時に…」と焦りを隠せなかった。

どうしたらいいのかわからなくなっていた彩葉の前に、見覚えのあるBMWが停まった。


「あれ?彩葉ちゃん?」


彩葉の恩師にして兄の蓮の幼なじみの京香がバーストして立ち往生してたバスの近くに立っていた彩葉を見かけて車を停めたのだった。


「バスがバーストしたみたいで、走行困難になってしまったみたいです…入学式があるのにどうしたらいいか困ってたんです…」


ちょうど休日で1人でドライブをしてた京香は、ちょうどいいと言った様子で「高校まで送るから乗って」と言ってくれたのでお言葉に甘えさせてもらう。

京香は比較的渋滞をしない裏道を抜け茨城岩間線県道43号線を岩間IC方面に向かい、玉里水戸線と交差する県道59号線を水戸方面に車を走らせた。

水戸市に入り国道50号線と交差する手前の交差点を右折し、裏道を走って無事入学式が行われる高校へと到着した。


「入学式が終わったら連絡してちょうだい、その間は水戸市街で適当に時間を潰してるわ」


彩葉が頷くと京香は国道の方向へ走っていった。

校門の周りには新入生らしき人達で溢れかえっていた、小中一貫校でたった1人で9年間を過ごした彩葉には新鮮かつ信じられない光景だろう。

自分のクラスを確認して教室へと向かうが人が多すぎて人混みに慣れない彩葉は既に気疲れしていた。

教室に入るとこれから一年間を共にする何人かの同級生が既にいた。

身長が149cmで細身の彩葉には、周りの人が大きく見える。

如月彩葉と書かれたネームプレートが置かれた机に座った彩葉は、まだ知らない担任となる教師が来るのを待っているとぞろぞろと新入生達が教室へと入ってくると同時に教師らしき人も入ってきた。

教室に全員が揃ったことを確認した担任の教師は、自分の自己紹介から始めた。


「今日から1年間、皆さんの担任をやらせていただく新庄あけみと言います。よろしく」


生徒達が口を揃えて「よろしくお願いします」と言うと、早速新庄先生が出欠を取った。

出欠を終えるとこれから体育館で式を始めると説明を受けて出席番号順に並んで体育館へと移動する。

まぁこの流れは経験してる人がほとんどではないだろうか?

彩葉は椅子から立ち上がって並んでいるクラスメイトを見て思った、自分より10cm以上身長が高い人達ばかり…自分と同じくらいの人もいるだろうと思っていたら意外にも自分のクラスは身長が150cm台前半の生徒が見当たらず変に自分が小柄で目立っているような感じで落ち着かなかった。

入学式が終わったら今日のところはすぐ帰宅しようと思った。


体育館へ移動し、入学式あるあるの校長や理事長の睡眠薬を飲まされて睡魔に襲われるようなお話を聞いたあとに教室に戻ってきて担任の初ホームルームを少しやったあと下校となる。

ホームルームで担任からの学校での規則や禁止事項などの話があったが、正直自分はそんな悪事をするようなことはないだろうと彩葉は思った。


ホームルームが終わり、今日はこれで終わりとなる。

「はぁ…疲れたな」と言葉をボソっと漏らした彩葉は京香にLINEをした。

終わりましたと送ると数分後に既読がつき、「迎えに行くから待ってて」と返信がきた。

彩葉は学校で人に気疲れして、その後に電車やバスを乗り継いで家と学校を往復するのかと思ったら急に不安になってきた。

なんとかなるだろうと思いつつもやはり頭の片隅では人間考えてしまうものだ。

皆さんも経験があるのではないだろうか?


しばらくすると京香が学校まで迎えにきた。

ちなみに京香は、彩葉が卒業後に廃校となった瓦谷小中一貫校から石岡市街にある中学校に転勤となっていた。


「お疲れ様!学校どうだった?」


彩葉は京香の姿を見てホッとしたのか、車に乗ってすぐに「疲れました…」と即答していた。

初日はそんなもんだよって言う京香の声が聞こえたような気がした時には、彩葉は車の中で寝てしまった。

京香は「相当疲れたようね」って独り言を呟きながら、彩葉を家まで送った。

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