第2話

 はぁ〜疲れた。とにかく疲れた。1日がこんなに長く感じたのは一体何年ぶりだろうか。特に放課後のあの時間が長く、疲れの元凶だ。


 あの後、本当に何もなく、俺は無事帰宅し、絶賛ベットの上で死亡中。風呂も入らず疲れに身を任せ、このまま就寝しようかとも考えたが、放課後に色んな意味で汗を掻きまくったのを思い出し、シャワーのみを浴びることにした。


「ホントなんだったんだ、あれは…」


 結局、シャワーのあとは倒れるようにして眠りについた。


※※※


 朝。目が覚めると、光は無く、暗闇だった。どことなく息も苦しいように感じる。俺はすぐに直観した。死んだのだと…

・・・・・んなわけない!顔面が冷たい。


「濡れ雑巾じゃねーか!」


 寝ている俺の顔には濡れた雑巾がかぶせてあったのだ。立派な殺人未遂事件ではあるが、すでに犯人はわかっている。こんなことしてくる奴はこの家に一人しかいない。


「おいクソ母親!なに朝っぱらから実の息子殺そうとしてんだ!」


「あらやっと起きたの大空ソラ。遅かったじゃない」


「遅かったじゃない、じゃない!!ってか、あと少し遅かったら死んどるわ!」


「だって~そこに寝てる顔があったら濡れ雑巾かぶせたくなるじゃない!自明の理よ」


 見ての通り、うちの母親はアタマのネジが相当ぶっ飛んでいる。ほんとにいつ殺されてもおかしくない。あ~早くひとり暮らししたい…身の安全のためにも。


「寝起きからうるさい。黙れ兄」


 会話を遮ってきたのは俺の2歳年下の妹、大地ダイチだ。現在中学二年生。垢抜けない童顔、シャレっ気が全くと言っていいほどなく、家でもどこでもジャージ姿。そんな萌え要素ゼロの妹に、反抗期が加わると、まあ!なんてことでしょう!憎たらしいことこの上ないクソガキに早変わり!それでも、優しいお兄ちゃんなので、


「そんな言い方しなくていいだろ大地」


 優しく言い返す。


「あ~最悪。朝から兄の声聞くとか、絶対今日のあたしの運勢最悪だわ~。それじゃ。母さん、そろそろ学校行くね~行ってきます」


 あのクソガキ!家族なんだから声くらい聞くだろ!それだったら、お前の運勢毎日最悪だよ!


 と、そんなことを思っていると、いつの間にか俺も家を出る時間になっていた。


「俺もそろそろ学校行ってくるわ。帰ったら息子殺人未遂事件について厳しく言及するからな」


 そう言い残し、家を後にした。


※※※


 学校にはいつも通り始業30分前に着き、今は教室のドアの前に立っているのだが、どうしてもドアに手が伸びない。物理的に伸びないのではなく、精神的に。ドアを開けた先には新木ゆいながいる。そう思うとどうしても入りたくなくなってしまう。しかも、隣の席におり、めちゃくちゃ気まずい。昨日のことがあって、どう接したらいいのか全く分からん。今日ほど学校に行きたくない、休みたいと思ったことは初めてだ。


「おい。何突っ立ってんだ?早く教室入れよ高橋」


「…あ、ああ。すまん。ええっと…」


「芦澤だ。名前くらい覚えろ」


「すまん…」


 学校来てからすまんしか言ってない気がする。すると、芦澤は豪快いにドアを開け、


「ほら、高橋も入れよ」


「ああ…」


 ドアの向こう側には予想通り、女神、新木ゆいなが俺の席の隣に着席していた。あと、芦澤君はとってもいいやつです。


 新木ゆいなは、俺の存在に気が付くと、静かに席を立ち、教室を出て行った。明らかに俺が来たことで出て行ったので、若干ショックではあったが、こちらとしてもどう対応したらよいのかわからなかったので助かった。


「なあ、高橋…」


「ん?…ええっ!?」


 横を向くとなぜか芦澤が涙目になっていた。


「ど、どうした?」


「だって、俺が教室入ったのを見た瞬間、ゆいな様出てったからさ、俺、避けられてるのかなって……グスンッ…」


 いや、多分俺が原因なんだよ…と言ってやりたいが、なぜか聞かれそうなので、俺は静かに芦澤の背中をさすってやることしかできなかった。


※※※


 結局、席を立った新木ゆいなは、教室を出てから五分とたたず戻ってきた。それからは俺と一言も会話を交わすことなく朝のホームルームが終わり、これから1限の授業が始まろうとしていた。






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隣の魅力的な彼女には秘密がありました 古都 @u104362u

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