隣の魅力的な彼女には秘密がありました

古都

第1話

 俺が高校に入学してから約二か月。ようやくクラスメイトの顔と名前、個々の性格等がわかり始めた頃。そんな時期から始まるラブコメである。


 先週末、高校入学以降初めての中間試験が行われ、本日が全科目それぞれの学年順位公開日。順位は一年生と二年生の棟をつなぐ渡り廊下に大きく張り出され、現在は夢や希望を胸に集まった一年生でごった返している。自分もその一人なのだが、結果は案の定、総合順位251位/489位と真ん中を若干下回ることとなった。


 教室に帰ると、何やらやけに騒がしく、人だかりができている。近づいてみると中心には俺の隣の席に座る新木ゆいなが質問攻めにされていた。


 新木ゆいなは学校内でものすごい有名人である。目鼻立ちが整っていて、スタイル抜群、きれいな黒髪ロングと美人要素しかない。そのうえ、誰に対しても優しく、常に笑顔を絶やさない。そんな女神のような新木ゆいなは入学から一週間とたたないうちに学校中の注目の的となった。もちろん新木ゆいなに告白しようとする輩も出てくるのだが、今のところ成功したという噂は耳にしていない。


 そんな女神、新木ゆいなに今日新たなステータスが追加されることとなった。


 “中間テスト学年一位”


 そう。教室での騒ぎは新木ゆいなが学年一位を取ったことにより起こったものだった。俺も陽キャっぽく見せるため、一緒に騒ごうかと思ったが、タイミング悪く担任が教室に来たため騒ぎもお開きになった。



***


 放課後、俺は忘れ物をしたことに気が付いたので教室に戻ることにした。今日は学校全体で部活が休みになっているので教室には誰もいないはずなのだが、どうやら先客がいたようだ。二人だけの教室というシチュエーションは非常に気まずい。そのため、入るのを一瞬ためらうと、中から声が聞こえてきた。


「ハァハァハァ~!たまらん!」


 え!?どういう状況!?なにがたまらんのかさっぱりわからなかったが、その後5分ほど待っても何も聞こえてこなかったので、恐る恐るドアを開ける。


 自分の行動をここまで秒で後悔したのはこれが初めてだと思う。


 声の主は女神こと新木ゆいなだった。


「・・・・・」


 死ぬほど気まずい。だって、女神がR-18指定のBL同人誌読んでニヤついているんだもん!!


「た、た高橋くん!?なんでこんなところに」


「こっちのセリフだ!」


「その~ね!これには深いわけが…」


 どうしよう。今すぐ教室から逃げ出したい。女神と放課後二人っきりなんて普通なら絶対うれしいはずなのに、もう嫌だ!


「ごめん!用事あったんだぁ~!それじゃ!」


 くるっと華麗に回れ右をし、教室から退散しようとした瞬間、俺の背中に爪が食い込まれ、


「逃がさないわよ」


死の宣告が下った。



***


「これはね、友達に借りた本なの!」


 これが女神の醜い言い訳第一声である。


「言い訳下手か!裏表紙にバリバリ『新木ゆいな』って書いてあるじゃねーか!」


「ぐぬぬ…」


「あっ!そうだ!思い出した!この間ね、駅の本屋さんで雑誌買ってたら、間にたまたま挟まっちゃったんだ!た・ま・た・ま、だよ!」


「かわいらしさで嘘ゴリ押しすんな!そもそも、駅の本屋にこんなゴリゴリの18禁BL同人誌置いてるわけないだろ!!」


「ぐぬぬぬ…」


「いい加減観念しろ!」


 女神はついに観念したのか、正座になり、


「私はホモがすごぉーく大好きな腐女子です。学校でBLを読む背徳感で興奮してました」


と告げた。これが本日2つ目の新たなステータス、


 “腐女子”


が付け足された瞬間である。


 教室に入った瞬間からわかっていたことだけど、実際に本人の口から聞くとインパクトがある。しかもあんな完璧超人女神の新木ゆいなが実は腐女子だったという事実が何より驚きだ。


「…ほら、ちゃんと言い切ったわよ。満足かしら?なら新木ゆいなは実は腐女子だったということは黙っていなさい」


「お、おう…」


「もしバラしたらあなたの根も葉もない恥ずかしい噂を流してやるわ。もとより、あなたのような消しカスがいくら私が腐女子だって言いふらしても誰も信じないと思うけど」


 女神だと思っていた彼女は悪魔だった。


「って!なんで俺が下の立場になっているんだよ!」


「なんでって、それは私が女神だからでしょう?」


 こいつ、わかってて演じ続けてやがる。


「それじゃあ私帰るから」


「なんだよそれ!爪背中にぶっさして俺を引き留めたのそっちだろ…っていないし」


 夕日で赤く染まる教室に一人とりのこされた俺は目的であった忘れ物を回収し、ひとまず家に帰ることにしたのだった。











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