第24話 西暦2016年:2

 今、日本の魔法少女は三種に分別される。

 体制派、中立派、反体制派だ。

 体制派は、政府の作った「魔法少女課」に登録し、行政の指導に従って魔法少女として活動している。

 中立派は、「魔法少女課」に登録せず、今まで通り、自分たちの好きなように魔法を使っている。

 反体制派は、明確に政府を敵と定め、潜伏しながらテロ活動を行っている。

 比率としては1:9:1。

 新藤桃は、中立派に属している。というより、存在を認識されていない。村田家で可愛がられている猫……それが今の新藤桃だ。

 樹海から逃げ出した後、一度も家には帰っていない。

 日本中で、否、世界中で大変なことが立て続けに起こっていたが、新藤桃はその全てを無視した。

 猫になりたくて戦ってきた。夢が叶った以上、これ以上戦う必要も、目立つ必要もない。

 今、新藤桃は自由なのだから。


 「歴史というのは、常に一握りの怪物によって進められてきた」

 と、黒猫の姿をした妖精プーホは言う。

「戦国時代だってそうさ。歴史を進めたのは戦国武将だが、人口の大半は彼らに振り回され、右往左往するしかなかった。今もそうさ」

 魔法少女の数はたった3万人だ。

「その3万人に70億人が振り回されている。そして、3万人の魔法少女も、100人程度の怪物的な魔法少女に振り回されている。そしてその怪物的な100人は、二人の英雄に振り回されている」

「スクールカーストみたいな話?」

「いや、全然違うよ。要領を掴めないなら茶々を入れないでくれないかな」

 けっこうガチ目に怒られた。

 怒られるのは一年ぶりなので、桃は面食らう。人間時代に感じた居心地の悪さを久しぶりに感じる。

「2人の英雄、西稀華子と、青葉理。今、世界はこの2人の魔法少女のゲーム盤だ」

 2人とも、知っている名前だった。

 西稀華子。殺人者の魔法少女。

 青葉理。詐欺師の魔法少女。

 どちらも碌な女じゃない。

 しかし。

「その2人って、仲間なんじゃないの?」

 桃が最後に見た二人は、牽制こそしあっていたが、同じ反妖精同盟の仲間として肩を並べていた。

 いや、ゲーム盤と例えたから、二人が対決しているように捕らえたが、ゲームは対戦ゲームではなく、協力ゲームというものもある。2人で動物の森くらいの気分で、この世界の開拓をしているのかもしれない。勝手にやってろ、というのが桃の偽りざる本音だ。正直どちらも二度と関わりたくないから、桃とは関係ないところで遊んでいてほしい。

「僕たちを滅ぼした後、彼女たちは敵対した」

 しかし、桃の期待は外れた。

 やっぱり、対戦ゲームをしているらしい。駒にされる他の人間はいい迷惑だ。

「西稀華子は今、反体制派魔法少女の中でも最大のギルド『帝国』のリーダーをしている。新規に覚醒した魔法少女の中でも、女子少年院出身の魔法少女や、殺傷力の強い魔法を扱う魔法少女をどんどん仲間に引き入れている。日本だけじゃなく、世界各地でテロ活動を行っている」

「なんで?」

「なんで、というのは?」

「なんで、そんなことする必要があるの?」

 野蛮を通り越して狂気の沙汰だ。テロとか意味が分からない。

「普通にしてれば普通に暮らしていけるじゃん。わざわざ戦うなんて馬鹿馬鹿しいよ」

 戦わなければ生き残れない。なんて、そんな価値観はこの世界にはない。

 普通にしていれば、普通に生活は保障される。欲しいものは殺し合わなくても手に入る。ましてや、魔法少女だ。魔獣を退治して願いを叶えればいい。なのに、テロ?

「華子って馬鹿なの?」

「いいや、彼女は異常者なのさ。西稀華子は、世界を征服しようとしている」

「世界征服!?」

 小学生かよ、と桃は猫の喉で漏らした。

「僕にも彼女のメンタリティは分からない。分かっていることは、西稀華子は、殺人に一切躊躇がないこと、人を惹きつける凶悪なカリスマがあることだ」

 そして、もう一人。

「青葉理は、西稀華子から世界を守ろうとしている。そのために様々な裏工作を仕掛けているようだ」

「西稀華子が悪玉なら、青葉理は善玉ってわけね」

「まぁ、その理解で概ね間違いではない。青葉理は、多くの魔法少女コミュニティと繋がりあい、西稀華子を牽制している。青葉理が所属するコミュニティ『学園』は、『帝国』と比べると一蹴されるほどの戦力だが、無数のコミュニティと連合をとることで、『帝国』と拮抗状態を創り出している。大した手腕だよ」

 あの詐欺師がねぇ。

 むしろ詐欺師だから纏め上げることが出来るのか。

「本題はここからだ」

 桃は聞く姿勢をとる。

「君の友人、くじらと雫だが、二人とも無事だよ」

 それを聞いた瞬間、ふっと、体が軽くなった気がした。

「くじらは今、『学園』で青葉理のサポートをしている」

 それは……嫌だな、と思う。プーホの話が本当なら、『学園』に所属しているということは、最前線にいるということだ。青っちの駒として機能しなければならなくなっている。

 何とか、青っちから引き離したい、と桃は勝手ながら思った。

 この時までは。

「日向雫は『帝国』に所属している。西稀華子からも重宝され、重要戦力の一人に数えられているらしい」

「…………え」

 それは。それはつまり。

 二人は敵同士ということだ。

 一緒に魔獣を退治した二人が。

「もっと重要な話をしてあげよう」


「近いうちに二人は殺し合うことになるよ」


「これが、僕がしたかった世間話だけど、新藤桃、君はどうする?」


 窓の外からは車の走行音が聞こえてくる。下校する小学生の笑い声。呼応するかのように、室内で猫たちが鳴き始める。


「嫌だ」

と、新藤桃は言った。

人類が滅びる、一か月前の出来事である。

 

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終焉世界の魔法少女 鈴鹿龍悟 @suzukaryuugo

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