第20話 10年の月日と結婚指輪

男装する生活。

それは何時迄も社会に通用するとは思えない。

いや確かに一部ではいいのかもしれないけど.....だけど。

酷な話をすると詩織と詩子はあくまで隠しているだけだ。


自らの経験を押し殺しているだけだ。

だからこのまま.....ずっと。

ずっと.....このままってのはマズイと思う。

これで過ごしてしまったらこのままになってしまう。

それで良いのだろうか。


「私達は何時迄もこのままで居るつもりは無いよ。瑞稀の為にもあるけどこのままじゃマズイってのは分かってる。だから時が来たらバラすつもりだから」


「.....そういう事。瑞稀」


「.....お前ら.....」


俺はそんな呟きをしながら見つめる。

ファーストフード店で詩織と詩子を、だ。

それから目の前のシェイクを見ながら.....溜息を吐いた。

ただの過保護だったか、と思いながら。


「.....すまん。決意を舐めてた」


「そうだね。でもこういうのって難しいよ。絶対に」


「.....確かに」


それからジュースを飲む詩織。

俺はその詩織を見ながら詩子を見る。

すると、ねえ。もし良かったらこの後時間ある?瑞稀、と聞いてくる。

俺は、?、を浮かべながら、まああるっちゃあるが、と答える。

詩織と詩子は見つめあってから頷いた。


「10年前の約束。.....婚約指輪を取りに行くよ」


「.....え.....」


「約束だから。だから今から婚約指輪を取りに行く」


「.....そんなものあったっけ?」


うん。

私達がこっそり作ったからね、と笑顔を浮かべる詩織。

詩子も笑みを浮かべる。

俺は衝撃を受けながらも赤くならざるを得なかった。

全くコイツらは、と思いながら。


「.....どっちが結ばれるかは分からない。.....だけど今こそ掘り出すべきだと思う」


「.....そうか」


「うん。今だからこそ」


「.....分かった。じゃあ後で行こうか」


それから俺達は頷き合ってから。

そのままシェイクを飲んだりして他愛無い話をしてから。

そうしてから河川敷にやって来た。

この場所に埋まっているらしい。

俺は広い野原を見ながらオレンジ色に夕陽を見る。


「この場所に埋めたから」


「.....何か目立つ目印とかあるのか」


「.....そうだね。土管の側に埋めたよ」


「そうなんだな」


見れば確かに大きな土管が2つ置かれている。

人の手では運べなさそうな土管。

その側でスコップで穴を掘り始める2人。

俺はその姿を見ながら、手伝うよ、と言う。

しかし、いや。瑞稀はそこに居て、とそのまま言われた。


「.....そうか」


「これは私達がやらないといけないから」


それから掘り出したもの。

それは煎餅缶だった。

俺は錆びたそれを見ながら、それか、と言う。


詩織と詩子は頷きながら缶を開ける。

そこには.....手紙が2つと。

1つの小さなポーチがあった。


「.....未来の手紙だね」


「.....うん」


「タイムカプセルみたいだな」


「まあそうだね」


それから手紙を開けると。

そこには子供の字でこう書かれていた。

未来の私達へ。私達はみーちゃんと再会していますか。みーちゃんは元気ですか。みーちゃんの好きな人は変わっていませんか、と。

俺はその手紙を見ながら眉を顰める。

それは詩織の手紙だ。


「.....詩子の方は?」


「.....(私達は決めました。何方が瑞稀を好きであってもこの婚約指輪が嵌まる方が.....婚約者だと。だから未来の私達へ。私達はいがみ合う事なく目の前を歩いて下さい。お願いします).....だって」


「.....え?」


俺は目を丸くする。

そして詩織と詩子を見る。

詩織と詩子は見つめ合って立ち上がった。

実はね。私達では決められないと思ったの、と2人は言う。

つまりどういう意味だ、と聞くと。


「どっちも同じぐらいに瑞稀が好きなんだよ?だったらこんなの決められないからね」


「.....そう。だから10年後の今。この指輪が嵌まる方が勝ちって事」


「.....それで良いのかお前らは」


「だって私達は姉妹だよ?敗北もあるって事だから。どっちかが結ばれたら自動的にね」


「.....」


それからポーチを開けると。

そこには成人女性の嵌める大きさのリングが。

つまり婚約指輪の様な物が1つ入っていた。

俺は唇を舐める。

そして2人を見据える。


「ここで決めよう。私か」


「.....私か。どっちが相応しいか」


「.....正直に言って俺はお前らを.....好いている訳じゃ無いぞ。今は.....こんな惨めな俺と.....」


「.....確かにね。でも瑞稀。貴方の想いは知っているよ。.....私も詩子も好きだって事」


「.....!」


ザリッと後退りした。

それから赤くなった俺。

そんな事が見抜けないと思ったの?、と聞いてくる2人。

俺は真っ赤のまま2人を見る。

でもね。2人を好きになっても日本では2人とは結婚出来無いから、と笑顔を浮かべる2人。


「.....し、しかし.....」


「.....これは私達なりの決意なの。受け取ってくれない?瑞稀」


「うん」


「瑞稀がどっちかの左手の薬指にこれを嵌めてそれで.....嵌った方が瑞稀と付き合うという事で」


「異論無し」


2人の事が好きだが。

まさかここまで考えられているとは思わなかった。

俺は赤面しながらも震える指で差し出された婚約指輪を受け取る。

それから2人を見据える。

2人は柔和な顔をしていた。


「.....良いか。本当にやるぞ」


「うん」


「だね」


そして2人にそれぞれ嵌めていく。

すると片方は緩すぎて取れた。

だが.....もう片方のソイツは.....上手く嵌った。

別のソイツは顔を上げて俺を見てくる。

そしてこう言った。


「.....瑞稀」


「.....何だ」


「.....キスしてあげて」


「.....この場所でか!?」


選ばれたソイツは.....詩織だった。

詩織は号泣しながら俺を見上げてくる。

詩子は笑みを浮かべながら拍手していた。

俺は真っ赤になったまま。

詩織の柔らかな唇に唇を重ねる。


「.....これで良いのか」


「.....うん。契約成立だね」


「詩子」


「.....ゴメン。今は顔を見ないで。ゴメン。本当に」


顔を覆いながら涙を流す詩子。

俺はその姿を見ながら3人で抱き締め合った。

それから俺は.....その日から。

詩織と付き合う事になった。

突然だったが.....うん。

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