詩織と詩子の絆
第18話 男装の全ての理由
恭子ちゃんの文房具。
つまり入学のための準備だが。
真剣に選んでいる恭子ちゃんの先の方で俺は文房具を見る。
昔から存在する色々な文房具が置かれている。
何というかチリ一つ無い棚だな。
掃除が徹底されている。
「お兄ちゃん」
「.....お前。冗談で言ってる?詩子」
「そうだね。冗談で言ってる」
「.....そうか.....うん」
可愛い感じだったが。
俺は苦笑いを浮かべながら詩子を見る。
詩子は真顔のまま俺を見ている。
そして、何を見ているの、と聞いてきた。
俺はその言葉に、シャーペンだよ、と文房具を見ながら答える。
「シャーペン?」
「.....ああ。シャーペンだ。.....そういえばお揃いにするって言ってなかったか」
「お揃いにしたかったけど。何だか変じゃない?それって。あくまで男同士なんだから」
「そうだな。確かにおかしいっちゃおかしく思われるよな」
「だからこっそりお揃いにしたい」
「.....そうか」
俺は笑みを浮かべながら詩子を見る。
詩子は頷きながら2人の元に戻って行った。
その時に喜八さんがやって来る。
喜八さんはニコニコしながら俺を見ている。
「良い物は見つかったかな」
「.....そうですね。色々と見つかりました」
「そうか。ゆっくり見て行ってね」
「.....すいません」
「.....何かい?」
喜八さんは柔和に見てくる。
俺はどうしても喜八さんに聞きたい事があった。
それは昔からのアイツらの状態を。
俺は、何故男装しているか知っていますか、と聞いてみる。
「それか。.....すまないな。それは色々あって僕からは話せない。何があったかは知っているけどね」
「.....やはりですか」
「ああ。彼女達を傷付ける事になるからね。でも彼女達から許可を貰ったなら話してあげても良いけどね」
「.....いえ。有難う御座います。俺.....自分で知ります」
そんな感じで会話していると。
詩織と詩子が俺を見ていた。
知りたいの?そんなに、と詩織が言う。
詩子も真剣な顔をしている。
俺はその言葉に、.....まあそうだな、と返事をしてみる。
「俺はお前らの事が知りたい。心から。だって大切なお前らだから」
「.....そう.....」
「お姉ちゃん。話す時かも」
「.....そうだね。.....ねえ瑞稀」
「.....」
俺はゴクリと喉を鳴らす。
それから詩織と詩子を見る。
詩織と詩子は、私達が男装しているのね。これは.....防御反応なの、と答える。
俺は、それってつまり身体がよく反射するよな。それ的な?、と聞く。
詩織と詩子は頷く。
「虐められた当初は私達は外も男装姿で出ないと気が済まなかった。これでも成長した方なの。.....悲しかった。悔しかった。.....だから防御したかったの」
「.....そうか。俺としてはいじめっ子を今直ぐにでも八つ裂きにして殴り倒したい気持ちなんだが」
「殴っちゃ駄目だよ。八つ裂きも。悔しいのは分かるけど」
「.....お前は優しすぎるぞ。何でそんな.....」
「優しすぎるというよりかは人を恨むばかりが全てかな、って思ったの」
詩織は笑みをそのまま浮かべる。
それから苦笑する。
俺はその姿に怒りが萎んでいく感じがした。
そして見開く。
そして拳を握り締めるのを止める。
お前らがそれで良いなら良いよ。
俺は意見を尊重するから、と言った。
「.....当初は詩子は外に出るのもやっとだったの」
「.....そうなんだな」
「だから私達で協力して歩みだしたの。この世界に」
「そうか.....」
「そんな時に瑞稀。貴方に再会した。私達は本当に嬉しかった。その事が」
俺は見開きながら見る。
喜八さんも少しだけ真剣な顔で見ていた。
俺はその姿を見ながら顎に手を添える。
それから詩織と詩子を抱き締めた。
「ちょ!何するの!?」
「瑞稀.....」
「.....御免な。守ってやれなくて。涙が止まらない」
涙が止まらない。
コイツらを守ってやりたかった。
そんなにボロボロにされるまで耐えていたなんて思ってなかったんだ。
俺は考えながらギュッと抱き締める。
「瑞稀.....有難う。でも恥ずかしい」
「そう!は、恥ずかしい.....」
「.....御免な。今だけこうさせてくれ」
俺はギュッとしながら涙を拭う。
それから、これからは俺が守っていくからな、とニコッとする。
その姿を見ながら2人は赤面する。
そうしていると恭子ちゃんがやって来た。
「.....お兄ちゃん」
「.....何かな?」
「有難う。そう言ってくれて」
「.....当然君も守るよ。俺は」
「.....お兄ちゃんは何時でもそう.....。.....ヒーロー」
俺達は4人でギュッと固まり合う。
それから暫くそうしてから。
喜八さんを見る。
すいません、と喜八さんに言う。
喜八さんもハンカチ片手に泣いていた。
「.....すまないね。こんな老人が泣いても仕方が無いんだけど」
「それよりも店舗の片隅でこんな事.....すいません」
「僕の店には殆ど寂れているし常連客しか来ないから。.....大丈夫だよ。心配しなくて。.....それよりも良かったね。詩織ちゃん。詩子ちゃん。胸の内があかせて」
「.....はい」
「.....です」
2人は涙を拭いながら笑顔を浮かべた。
真顔のままだが恭子ちゃんも悲しげな顔を浮かべていたが柔和になる。
地球は常に回る。
癒えない傷もある。
だけど今からその傷を回復させる事は出来る筈だ。
俺は考えながら.....真剣な顔で見つめる。
3人を、だ。
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