第17話 恭子の文房具を買いに行く

遊園地デートは.....波乱万丈の中で終わった。

俺達はお土産を買ってから帰宅の途に着く。

その中で最後に駅前で別れる時に悠が俺に向いてくる。

瑞稀くんはやっぱり瑞稀くんだね、と言ってきた。


「私は君が好きだな。.....ああ。恋愛感情じゃ無いから安心して。私は君という個性が好きだな」


「.....そうか。有難うな悠」


「私も同じ様に好き。お兄ちゃんの事」


「有難う。恭子ちゃん」


それから俺達は別れた。

夕空の下、歩いて帰宅する俺。

そして空を見上げる。

個性が好きって言われるのも有難いよな。

俺は良い人って事だ。


「詩織を。詩子を守りたい気持ちで.....そうだな。これで考えていこう。将来の夢を」


俺は考えながら側にある親に当ててのお土産を見ながら。

そのまま歩いて帰宅する。

それから翌日を迎えた。


俺の元にまた恭子ちゃんが来る。

だけど今回は違った。

何故なら詩織も詩子も一緒だから。

一体何しに来たのだ。



「昨日は有難う御座いました」


「.....お、おう。有難うね。恭子ちゃん」


「今日は実はね。恭子ちゃんの希望でお兄ちゃんと一緒に筆記用具とか買いに行きたいそうだからね」


「.....俺?」


俺は目を丸くしながら恭子ちゃんを見る。

恭子ちゃんは相変わらずの顔立ちで俺を見ている。

真剣な顔をしている気はした。

俺は顎に手を添えながら笑みを浮かべる。

分かった、と言いながら。


「私もシャー芯とか買いたかったし良かった」


「そうだな。俺も何か筆記用具買おうかな」


「私も買おうかって思う。瑞稀とお揃いを」


「ちょっと!それだったら私もお揃いにする!」


「お前ら.....」


額に手を添えながら恭子ちゃんを見てみる。

恭子ちゃんは真顔のまま、私は色々な場所に行ってみたいのです。それなりにあちこちに、と話を切り出してきた。

俺は、その心意気は凄いな、と言葉を発する。


「.....私自身が人生を無駄にした様な感じがするので」


「.....人生にはどんな形であれ無駄なんか一つも無いぞ。特にお前の事だ。それは無駄なんかじゃない。俺は.....お前の人生は少しだけ暗かったと思うけど.....でも今は光が見える筈だから」


「お兄ちゃんは人を惚れさせるのが得意ですよね。上手というか」


「へ!?」


俺は見開き真っ赤になる。

それでようやっと恭子ちゃんがクスクスと笑みを少しだけ浮かべた。

そして、冗談です、と答える。

俺はその言葉にホッとしながら、冗談がキツイぜ、とコメントする。

恭子ちゃんはまた真顔になりながら、でもお姉ちゃん達が惚れた理由が分かりますよね本当に、と言ってくる。


「私はお姉ちゃん達のどっち側にも付かないで.....応援したいです。どっちが結ばれる事になろうとも私は全力で応援します」


「.....相変わらずだね。恭子ちゃん」


「恭子.....」


「もー!可愛いなこのヤロウ♡」


詩織が恭子ちゃんにイチャイチャする。

恭子ちゃんは困惑しながら、止めて。お姉ちゃん、と言う。

俺達はその姿を見ながら笑みを浮かべていた。

それから詩子が言う。

じゃあ行こうか、と。


「.....でもその。今日は瑞稀の事とかお姉ちゃんに譲るね。色々な事」


「.....え?何で?」


詩子は何かを思い出してから真っ赤に染まったが。

直ぐに首を振ってから、お姉ちゃんに今日は譲りたいから、と笑みを浮かべる。

あの.....すいませんが俺はオモチャでは無いのですが。

俺は苦笑しながら顔を引き攣らせる。


「お前ら。俺はオモチャじゃないぞ」


「じゃあATM?」


「悪質だけどな。それもっと」


俺は真顔のまま言ってくる恭子ちゃんに戸惑いながらそのまま玄関に来た。

そして準備をする。

すると、ねえ。なんで今日は譲ってくれるの?、と詩織が詩子に聞く。

詩子はボッと赤面しながらも何とか取り繕う様にして。


私がそう思ったから、と咳払いした。

そうか分かった。

これは昨日の件か、と思いながら詩子を見る。

また苦笑しながらであるが。


「詩子お姉ちゃん何かあったの」


「.....何にもない。ちょっと気を変えてみただけ」


「.....そう」


言いながら準備をする恭子ちゃん。

俺はその姿を見つつ靴を履く。

それから近所の商店街に歩いて来た。

するとあっちらこっちらから声がする。

美少女ばっかじゃないか、とか。


「アハハ。慣れないね。やっぱり何時もの商店街だけど。私達何時も男装しているから」


「そうだね。お姉ちゃん」


「私.....何だか鬱陶しく感じる」


そんな会話をしながらゲーム屋とか。

魚屋とか八百屋とかカフェとか献血とか。

そう言う場所を見て回る。

それから文具屋に着く。


「おや」


「あ。喜八さん」


「文具を買いに来てくれたのかい?」


洋燈文具屋の店主、喜八大五郎さん。

おんとし88歳?だったかな。

超元気なお爺ちゃん店主。

俺も知っているが.....しかし。

あまり来た事は無いなこの場所には。


「そうですね。今日はこの子メインの文房具を揃えに、です」


「.....初めて見る子だね?こんにちは」


しかし警戒しているのか。

真顔のまま話そうとしない恭子ちゃん。

俺達の背後に隠れてから何も言わないのだが。

その姿を見ながら俺は苦笑する。


「大丈夫。話をしたく無いのは当然だよね。僕も.....昔は虐められていたから。だから.....気にする事があれば話をしたく無いのは当たり前だ。まあ僕の場合はいじめっ子よりも長生きしているけどね」


「そうなんですか.....?」


「うん。所で君も初めましてかな?」


「恐らくそうなると思います。俺は羽柴瑞稀と言います。初めまして」


「そうか。初めまして。僕は.....喜八大五郎です。初めまして」


俺はその挨拶をする姿を見ながら俺も頭を下げる。

それから喜八さんと同じ様に笑みを浮かべた。

そして握手をし合う。

そうしてから喜八さんは、ようこそ、と言ってくれた。


「喜八さん。また購入でお世話になります」


「そうだね。.....僕としては孫が来るみたいで嬉しいから。中学時代もそうだけど。ゆっくり見ていってね」


「有難う御座います」


さて.....恭子ちゃんがどうなるのか、だな。

俺は考えながら恭子ちゃんを見る。

恭子ちゃんはそれなりに努力している様だ。

ブツブツと何か言っている。

反復練習の様に挨拶の言葉を。

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