第16話 卑怯者って思われたくない

先程の事はあくまで言わないでおきたい所だ。

本当に内緒の話で止めておきたい。

所だが.....。


詩子があまりの恥ずかしさ故か目の前から消えた。

これは非常にマズイ気がする。

俺は脳内でグルグルと赤面で色々な思いを回転させながら。


目の前で詩子を探している3人を見る。

俺も探すふりをしながら.....詩子に出て来てくれと願いを込める。

それから探していると。

トイレから詩子が丁度、出て来たのを見つけた。


俺は周りを見渡す。

だが3人は居ない様だった。

俺は詩子に接触する為に近付いたが。

詩子は俺の顔を見てビクッとして駆け出して行く。

その手を俺は掴んだ。


「詩子待て!頼む。逃げないでくれ」


「瑞稀。ゴメン。恥ずかしくて顔が見れない」


「.....それは良く分かる。だけど待ってくれ。話が少ししたい」


「.....何の」


「この事は外部に漏れるとマズイ。だから平然を装ってほしい。俺は.....ノーカンだと思っている。あの事は」


他所を向いたままの詩子に必死にそう呼び掛ける。

すると詩子は俺に向いてきた。

その目には涙が浮かんで.....いる?

俺は、!?、と思いながら詩子を見る。

詩子はこう切り出してきた。


「お姉ちゃんになんて言えば良いのか分からない。私は確かに瑞稀には好かれたい。だけどこんな形でキスをしてしまって瑞稀が私を好きになったら卑怯だって.....どうしようって悩んだら.....逃げたくなった」


「.....お前.....」


「だから私は逃げたの。御免なさい瑞稀」


「.....俺なんかが言える立場じゃ無いけど。.....大丈夫だ。俺は.....お前と詩織は同等に見ているから」


詩子は涙を流しながら、本当に?、と聞いてくる。

俺は頷きながら少しだけ赤面する。

それから言葉を発した。

まあその。恥ずかしいのは同じなんだ。だけどこれでお前を優先的に好きになったりはしない。だから安心してくれ、と俺は笑みを浮かべる。


「瑞稀.....有難う。卑怯者って思われたくなかった」


「.....お前本当に良い子だよな。詩子」


「こういうのは卑怯は絶対に駄目だと思っているから」


「.....そうか」


俺は苦笑しながら詩子を見る。

するとみんながやって来た。

やっと見つけた!、と言いながら、だ。

探した。詩子お姉ちゃん、とも。


「.....ゴメンなさい。みんな」


「あれ.....詩子。泣いていたの?」


「.....目にゴミが入っちゃって」


「そういうこった」


俺達は顔を見合わせながら頷き合い目の前を見る。

詩織は、そう?、と言いながら笑みを浮かべる。

悠も、良かった、と言ってくる。

だがその中で.....最後の恭子ちゃんが顎に手を添えていた。

何かを察している様だが.....。


「詩子お姉ちゃん。何かあったの」


「.....何もない。ゴメン。本当に目にゴミが入っただけ」


「そう。なら良いけど」


お兄ちゃんが何かしたのかと思ったから、と言ってくる恭子ちゃん。

冗談がキツイのだが。

思いながら真顔のまま続ける恭子ちゃんを見ていると。

みんなが笑った。


「.....2人とも良い兄妹って感じだね」


「そうだね。お姉ちゃん」


「そうだねぇ」


首を振りながら溜息を吐く恭子ちゃん。

俺はその姿にまた苦笑しながら居ると悠が、そうだ。イースター記念のチュロス売ってたよ。買いに行かない?みんなで、と切り出してきた。

俺達は腹の音を聞く。

確かに腹減ったな.....、と思う。


(ぐー)


「.....ハハハ。お腹減ったのか。恭子ちゃん」


「.....別に」


「昔からガメツイからね。恭子は。アハハ」


真顔のまま答える恭子ちゃんに詩織はクスクスと笑いながら詩織は恭子ちゃんと手を繋ぐ。

それから歩き出すと詩織が俺の手を握ってから耳打ちした。

有難う瑞稀、と言いながら。

俺はその言葉に笑みを浮かべて首を振る。


「俺は殆ど何もしてない。思いを伝えただけじゃないか」


「瑞稀は何時もそうだよね」


「俺は当たり前と思っているからな。こういうのは」


「もー!!!!!2人でコソコソと何を話しているの!」


詩織が割り込んで来た。

俺は咄嗟に、将来の話だ、と答えてから詩織を見る。

なりたいものとかあるのか?詩織は、とも聞いてみる。

詩織は目を丸くしながらも、私?私は.....保育士さんかな、と言ってきた。


「.....私は先生になりたい」


「私かな。私は.....そうだね。保健室の先生かな」


「.....私は特にない」


各々将来を語る。

最後にみんなが俺に向いてくる。

瑞稀は?、と言いながら。


俺は目を丸くして顎に手を添える。

そして立ち止まる。

それから答える。


「詩織と詩子を、みんなを守れる職業に就きたい」


「.....なっ!?」


「.....!?」


その為には首相かな、と冗談混じりで言う。

詩織と詩子は真っ赤になって俯く。

プシューと湯気が出ている。

恭子ちゃんが俺に向いてきた。

そして真顔のまま、お兄ちゃん。言い過ぎ、と言う。


「なりたいものは今は無いよ。これから考えていくさ」


「そうなんだね。早く見つけれると良いけどもう高校2年生だよ?早く決めないと」


「.....悠みたく何か見つかれば良いけどな.....うん」


俺は考えながら空を見上げる。

鳥が飛んでいる真っ青な空を、だ。

なりたいもの、か。


将来なんてまともに考えた事無かったな。

職業.....なりたいもの.....。

何だろうな俺がなりたいものって.....?

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