第9話 奇跡という全て

芋づる式とはこういう時だろうと思った。

どういう時かといえば今である。

詩子の事もそうだが詩織も保健室の先生と。


クラスメイトの1人にバレた。

その事を詩織は、あちゃー、的な感じで小顔で狭い額に手を添える。

俺と詩織と詩子が集まった放課後の教室。


「そもそもこういうのはいつかはバレる事だろ。お前らがどれだけ隠しても胸も大きいし女性という存在は隠し切れないと思う」


「まあとは言っても簡単にバラすなんて.....詩子も駄目だよ〜」


「成り行き上、仕方が無かったかも」


詩織は困惑しながら詩子を見る。

詩子は、御免なさい。お姉ちゃん、と言いながら可愛らしく顔を下に向けてシュンとする。

俺はその姿を見ながら詩織を見た。

詩織すまない。俺の責任でもあるから、と言いながら。

そんな詩織は、もう良いよ。仕方がない、と話しながら俺達を見る。


「何の話をしているの?」


「!?.....おま!?遠山さん!?」


「私も混ぜてほしいな」


「え.....いや。それは.....」


遠山さんは唇をへの字にする。

えー。ダメ?恋バナでしょ?、とも言ってくる遠山さん。

いや!?、と言いつつ真っ赤になる2人。

俺は苦笑しながら2人を見てから。

そのまま遠山さんを見る。


「恋バナじゃないよ。この先のコイツらの(男)としての話だ」


「.....ああ。そうなんだね」


「でも終わったから恋バナでも良いかも」


「そうだね」


そんな感じで2人は言いながら。

遠山さんを見る。

まあ相変わらず詩子は遠山さんを嫌っている様だが。

詩織は遠山さんを見る。


「遠山さん」


「.....そんな控えめに言わなくて良いよ?みんな。私の事は悠って呼んで」


「じゃ、じゃあ悠。部活は?」


「私の部活なんだか先生が風邪引いちゃって休みになったから。暇だなぁって思って教室に来たの。そしたら3人を見つけたからね」


「.....ふーん」


詩子は相変わらず冷たい。

視線がジト目であった。

俺はそんな詩子を苦笑しながらまた見てから。

悠に向く。

恋バナは好きなのか、と聞いた。


「もちろん大好き。だって青春でしょ?アハハ。それにとても興味深いよ?羽柴くん達の恋の状態。トライアングルって言うのかな」


「.....楽しい?それって」


「楽しい。私は.....他人の幸せを願うのが好きだから」


「.....?」


何かを失った悲しみの様な顔をする悠。

それからこんな事を言い出した。

実はね。幼い頃から14年間飼っていた愛犬が死んじゃったの、と。

俺達は顔を見合わせる。


「で。何だか色々と塞ぎ込んでいた時に出会ったのが.....明るくしてくれたのが羽柴くん達だった。.....だから是非とも仲良くしたいなって思って」


「.....そういう事か」


「何で死んじゃったの?」


「癌だよ。メラノーマだった」


メラノーマ.....か。

何だか聞いた事があるな。

人間で例えると悪性の癌だった気がする。

それも相当に、だ。

人間で例えて良いのか知らないが取り敢えずそんな感じだった気がする。


「最後は安らかだったよ。.....でも悲しいかな」


「そりゃそうだろうな。悲しいと思う」


「私だったら耐えられないかな」


「.....私も」


でも悠はそれを乗り越えようとしている。

凄いね、と言いながら笑みを浮かべる詩織。

俺はその姿を見つつ、だな、と返事をしてみる。

すると悠は、有難うね、と涙を浮かべて返事をした。


「.....だから応援したい。君達の事を」


「私達の事は厄介だよ?そもそも私と詩子は瑞稀が好きだし」


「はっきり言うなお前」


「私のものだから」


「お前のものになったつもりは無いからな」


何を言っているんだ。

プクッと頬を赤く染める詩子。

俺はその姿を見つつ溜息を吐いた。

するとクスクスと笑いながら悠は笑顔を見せる。

それから手を差し出してきた。


「お友達になってくれる?」


「そうだね。私は良いよ」


「俺もな」


「.....私は嫌」


オイ、と思いながら詩子を見る。

詩子はその時にそっぽを向く。

すると詩子は、だって瑞稀を奪いそうだから気は抜けない、と。

俺は顔を引き攣らせた。

あのな、と思いながら、だ。


「私はそんな事はしないよ。詩子ちゃん」


「.....」


「あくまで詩子ちゃん達を応援するだけだから。ね?」


「.....分かった」


それから詩子と悠は和解した。

そして笑みを浮かべ合う。

俺はその姿を見つつ詩織に向く。

詩織は笑顔を浮かべながらも苦笑していた。

そうしてから悠は笑みを浮かべるのを止めて俺達を柔和に見てくる。


「この後には予定があるの?」


「.....どうした?」


「もし良かったらカフェに行かない?私がオススメするカフェがあるの」


「それ良いね!」


「じゃあ4人でこのまま行こうか」


俺は悠に、そうだな、と返事しながら。

そして俺達はそのままそのカフェに行く事になる。

もっと詳しく話を聞かせてほしい、的な感じで、だ。

詳しく.....か。

そう思いながら。

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