第8話 恋という花束

「説明してくれるのかな。何故この様な状況になったの?」


「遠山さん。襲ったのは俺じゃない。あくまで康太だ」


「.....ふーん。.....えっち」


「いや。だから俺じゃないって」


あくまで無罪だよ俺。

考えながら俺は盛大に溜息を吐きながら遠山さんを見る。

そんな遠山さんの対面。

丁度俺の右側に座っている詩子は真顔のままだった。

というか悪い事をしたと全く思ってない様だ。


「おい。康太さんや。お前も何か言ってくれよ」


「何を言うの。邪魔されたって言った方が良いの」


「邪魔っておま」


「私はあくまで2人きりで楽しみたかったから。色々と」


「誤解するからな。その言い方は!?」


これは役に立たない。

俺は考えながら遠山さんを見る。

遠山さんは赤くなりながら俺達をジッと見ていた。

えっち、と呟きながら。

あくまで俺は被害者で恥ずかしいのですが俺も。


「もー。心配して来たらこんな.....というかまさかと思うけど.....耕平くんは?」


「その通りだが女子だ」


「そう.....って何でこんな事になっているの!?」


「それは俺にも分からない。そもそも何故コイツらが男装なんかしているのかも分からないんだ。説明しないから」


俺は溜息をまた吐く。

それから俺は詩子を見る。

詩子は真顔のまま、何故バラすの、という感じであった。

俺は、この状況でバラさずには居られないだろ、と目線で合図する。

そして遠山さんを見る。


「とにかくこの事は内緒にしておいてほしい。俺としても訳が分からない状態だが」


「理事長先生とか知っているの?この事は」


「知っている。全て知っている。今の所、知らないぐらいなのは全校生徒と教職員ぐらいじゃないのか。担任はどうか知らないが」


「何故に性別を偽る事が許されているの?理事長先生知っているんだよね?」


「そうだな。理事長はコイツらの祖父だ」


「.....え?!」


遠山さんは目を丸くしながら俺を見る。

そして詩子を見た。

詩子はそっぽを向く。

それから頬を膨らませた。

俺はそれを見つつ遠山さんを再度見る。


「俺と遠山さんだけの秘密だ」


「まあそうだよね。こんな可愛い子が男装って.....」


というかよくよく考えたら女の子っぽいところはあったね。

と遠山さんはクスクスと笑う。

その姿を苦笑気味に見ながら、だな、と答える。


何だか気は楽にはなったな。

こうして共有出来る人が現れて。

遠山さんならバラさないだろうし。


「ところでえっと。康太くん?じゃないよね。本名は?」


「詩子だけど」


「そう。.....えっと。そうなんだね。.....詩子ちゃんは羽柴くんが好きなの?」


「な」


ガスバーナーにボウッと火が点いた様に赤面した詩子。

そして大慌てで全てを否定する。

それから、そんな訳無い!、と首をブンブン振って否定した。

その反応は認めている様なもんだがな。

俺も額に手を添えてから首を振る。


「ふーん。恋なんだねぇ。うふふ」


「恋じゃない!私は.....惚れてない!」


「じゃあ何で今回の事をしていたのかなぁ?」


「そ、それは」


詩子は真っ赤になりながら俯く。

それから唇を噛みながらそのまま震える。

俺はその姿を見ながら苦笑しつつ。

遠山さんを見る。


「遠山さん。止めてやってくれ。恥ずかしがっているから。悪いとは思っているだろうしなコイツ」


「うん。止めるよ。.....そうだ。ねえ。羽柴くん」


「何だ」


「羽柴くんは.....詩子ちゃんが好きなの?」


「ふあ」


何を言ってんだ?!

俺は真っ赤になりながら慌てる。

ニヤッとする遠山さん。

よく見れば詩子は興味津々で俺を見ている。

俺はその姿を見ながら目を逸らす。


「遠山さん。好きな人は居ないよ。俺は」


「そうなんだ。じゃあ今は片想いなんだね。詩子ちゃん」


「そうだけど何か」


「.....うんうん。良いなぁ。そういうの。もしかして昔から約束していたりとかしたの?こういうの」


「教えない」


冷たい。

まあこれが詩子かな。

俺は苦笑いを浮かべながら頬を思いっきり膨らませた詩子を見る。

詩子はプイッと横を向いた。


「遠山さん」


「うん?」


「授業とかは大丈夫なのか?」


「私は特別に先生に許可を貰って来たから大丈夫だよ」


「そうなんだな。すまない」


「うん。でもビックリかな。君が男の子じゃなかったなんて。康太くん.....じゃなかった詩子ちゃん」


それはビビるよな。

俺は考えながら遠山さんを見つめる。

遠山さんはクスクスと笑いながら詩子ちゃんを見た。

そして、でもこの先もずっとこのままなの?、と聞く。

詩子は頷いた。


「うん。だって私は男だから」


「.....うーん。でも何時迄これで貫き通せるのかな」


そんな言葉を言った時。

ドアが開いた。

それから保健室の先生が入って来る。


ゴメンねぇ、と言いながら。

危ないと思ったが。

幸いにも聞かれては無い様だ。


「.....どうしたの?」


「何でも無いです。何というか康太くんの事について話していました」


「そうです」


俺と遠山さんはそう頷く。

それから唇に人差し指を立ててから先生を見る。

そうなのね。ゴメンなさいね。色々と遅くなったわね、と言いながら慌てて書類を置く先生を見つつ。

俺達はホッと胸を撫で下ろした。

すると先生はとんでもない事を言い出す。


「まあでも.....聞いても良いかしら。康太くんっていうのはおかしいんじゃ無いかしら?ふふふ」


「.....え」


「!?」


「3人とも。私は騙せないわよ。見事な女の子でしょ康太くんは。サラシで胸を隠している様だけど騙せないわよ」


言いながら、本当の名は何て言うのかしら、と詩子の手を優しく握る先生。

俺は、騙せないか、と思いながら苦笑して頬を掻く。

それから詩子を見る。


詩子は恥ずかしがりながらも、詩子です、と答えた。

何というかこれに思ったのは。

こうやって男装の殻を破って世界は広がっていくんだな、と思えた。

まあこれなら教職員の殆どにバレているかもな。

そう考えながら。


「詩子ちゃんね。私は目黒。保健室によく居るから何かしら困ったらいらっしゃいな」


「.....え?.....あ、はい」


「ふふふ。だとすると貴方のお兄さんもお姉さんって気がするわ」


先生に何もかもがバレていく。

芋づる式である。

俺は更なる苦笑いを浮かべながら詩子を見る。

詩子は助けて、的な感じで俺を見ていた。

助けようがないんだが。

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