第5話 勘違いは、させた方が悪いのか、した方が悪いのか、はっきりしないからタチが悪い
「実は昨日、ずっと引きこもってたロアの部屋に行ったんです。呼ばれて」
放課後。今日は少しだけ学校が早く終わった。外では運動部が青春に燃えている。
試合に出れるのかなとか、練習についていけるかな、だとか、一人一人不安や悩みを抱えているのであろうが、帰宅部の俺も彼らとは別のベクトルで悩んでいた。
「どうだった……?」
「……なんか、思い出すたびに胸が痛くなるんですけど……」
先生は真剣な顔をして話を聞いてくれたのだが、あっ察した、って顔をした。
それからちょっと行き詰まった後、今度は心配そうな顔をする。
「……そ、そうなのね。二人とは血は繋がってないのよね……?」
「え? あ、はい……」
二人は俺の継母の連れ子だからそうだが、なぜ今?
「そ、そう……先生あんまりその、経験ないんだけど……話聞くよ……?」
「すいません……俺、初めてだったから、マジで今まで感じたことないくらいドキドキしながら部屋に行ったんですよ……」
「う、うん……失敗は誰にでもあるわ……ん、先生頑張るね……」
「はい?」
なぜ先生の顔が、徐々に赤くなっていってるのだろうか。
「そのそれで……最初よくわからない状態が二時間くらい続いて……困惑してたんですけど、止めたらロアが催促するから、黙って続けてたんです。」
「う……うん……二時間……」
「で、ちょうど疲れた頃にロアの要望で交代したんですけど、上手だったから褒めたりしてて、気分も上がってきたから、やってる最中に日本語を教えたりもして、すごくいい感じになってた気がしたんですよ。」
「うぅ………ん」
「ロアのやつ、11時に夜食食べる習慣があるんですけど、するのに夢中で忘れてたから、急いで食べ物用意して持って行ったんです、でももうドアが閉められてて……」
「うんうん………ゆっくりでいいよ……」
「しかも、去り際にわざわざドア開けて俺のこと引き留めて、『変態クソ豚野郎』って……。昨日は大丈夫大丈夫って自分に言い聞かせてたんですけど、今は思い出すたびに胸が痛くて……」
「……け、結構上級者……なのね……」
「え? あ、えと、まあ結構やり込んでるんで……」
なんで先生がゲームのこと知ってるんだろう?
「え!? えっ……そうなんだ……ヤり込んでるんだ……」
なぜ驚く……? そして何その目は。
「それで……枢木くんは、ロアちゃんのことどう思ってるの……?」
「え?! な、なんでそんなこと聞くんですか?」
「大事なことだから……っ!」
「えぇ、と、そうですね……同じ趣味を共有できる仲間……とは違うなぁ、」
「同じシュミ……」と呟く先生の顔が、どんどん赤くなっている。
「手のかかる妹……みたいな感じですかね」
「妹みたいなやつ……つまり好きってこと……?」
「〜〜〜〜っ!? すす、好きだなんて、なに言ってるんですか……!! この感情と好きって感情は全然違いますよ!!」
「え、そうなの? やだ、もうダメだわ……先生ついていけない……」
「え?」
机につっぷし、顔を隠しながらモゴモゴいう。
「その、え……エッチとか、そういう上級者向けのプレイは、初めからするべきじゃないと先生思うの……でも、二人のことだから……先生もとやかく言わないけど……ちゃんと避妊だけはするのよ……? 枢木くんのことだから大丈夫だろうと思うけど……」
?! えっち? 避妊??
今の話の流れでなんでそんな感じの単語が出てくるんだ?!
「せ、先生……なんの話してるんですか!?」
「……え?」
「え?」
「え……ロアちゃんに呼ばれて部屋に行って……その……初めてのえっちをしたんじゃないの……? それで仲良くなったと思ったのに、その後突き放されて辛いって話じゃ……」
「じゃないですよ!? 俺が言ってるのは同じゲームの趣味があって、一緒にというか、複数人でできるゲームなのに一人づつ交代にした後、日本語とかいろいろ会話して仲良くなったと思ってたのに、『変態クソ豚野郎』って言われて距離をうけたことにショック受けたって話ですよ!!」
「っ〜〜〜〜〜!! もう〜〜〜!!!!! そいういうことは早く言ってよ〜〜……っ!!」
「どんなこと考えながら話聞いてたんですか!?」
「聞かないでぇ〜〜!! 部屋に呼ばれたとか、唇とか腫れてるのとか朝から気になってたから、キスのしすぎでそうなったんだ、って合点がいっちゃったの!! ぅうぅぅぅ〜〜〜〜!!」
途端に顔の温度を上げながら、先生は教室から走り去って行ってしまった。俺の悩みはあんまり解決してない。
うちに帰ってしばらくして、チャイムがなった。
「さ、さっきは取り乱してごめんね……」
リビングに上がった先生が赤面しながらそういう。
「いや……言葉足らずだった俺の責任ですし……」
赤面しながら俺もそういう。
「で、でも、そういうことはちゃんとお互い好き同士じゃないとダメなんだからねっ!?」
「……はい、わかってます……」
なんで俺がこんな気持ちにならんといかんのか。
それから数日後。毎日先生はうちに来てはアーニャに日本語を教えてくれていた。
その努力が実ったのか、今朝。
「アーニャも学校行きます!」
久しぶりに制服姿のアーニャが、朝の6時からリビングに待機していた。
どういう風の吹き回しだ? とかそんなのは、どうでも良くなるくらい嬉しかった。
んで、さっき教室についたのだが……
「きゃああかわいい!!」「どこから来たの?」「銀髪なんて初めて見た!」「制服似合ってるね!」「部活なに入るの?」「今度遊びに行こうよ!」
アーニャを取り囲む人間から聞こえてくる声だ。
中にはどさくさに紛れて告白してるやつまでいる。
「ほらそこ、自分の教室に戻れ」
朝はそれで解散。しかし、休みの度に奴らはアーニャに群がり、質問攻めを浴びせ続けた。
囲まれるくらいは想定済みだったが、最悪なことに、四時限目が終わった昼休み、それは起きた。
「ねぇねぇ、今度一緒遊び行こうよ? 日本のいいとこ案内するよ?」「いいなそれ! あそこのラブホテルとかどうよ!?」「どこのジャパニーズカルチャーだよ!ワハハ」「国際異文化交流だろうがよ!」
先生たちも手を焼いていると聞いた先輩たちだ。見るからに柄が悪い。制服も全開で、下げパン。リーゼントを見た瞬間、江戸からタイムスリップしてきたか? というツッコミが頭に浮かんだ。
アーニャは、まだ言葉をわかっていないので、ニコニコと応対しているが、男たちの距離が明らかに近いのには少し警戒している様子。
そしてついに、一人の男がアーニャの肩を抱き出した。
これにはアーニャも明らかに嫌がる様子を見せる。
咄嗟に、体が動き、次の瞬間俺はその男の腕を掴んでいた。
「嫌がってるのでやめてください」
「お? なんだお前? 一年のくせに調子乗ってんな?」
「この子から離れてください」
男たちを押し退け、アーニャとの間に入る。アーニャが頼れるのはこの学校で俺だけ。ここで引くわけにはいかない。
「なぁそろそろ離せやその手」
「だったら離れてください」
今にも殴りかかってきそうな勢いで、俺を睨みつけた。正直、恐ろしすぎて、膝が今にも砕けそうなほど震えている。
「こら!! なにやってるの!」
橋本先生がきたが、
「あー? なんだよお前」
男の一人がそっちに食いつきやがった。橋本先生は新人だ。その中学生のような見た目と、少し抜けた性格も相まって、彼女はめちゃくちゃに舐められている。
「い、上級生が他学年の教室に入ってはいけません……! きゃああ!」
先生が悲鳴をあげる。その男が先生のダイナマイトに手を伸ばしたのだ。
無性に腹が立ったのは、親父と重なる部分があったからだろうか。
気づいた時には、その男を殴り飛ばしてしまっていた。
「大概にしろよお前ら!! 自分より弱い人間ばかりに手を出しやがって!! 恥ずかしいと思わないのか?! これ以上人に迷惑かけ続けるなら、俺が相手になるからこい!」
「お……おい……あのパンチの威力見たかよ……」「……完全にのびてるぞ……」
狼狽える男たち。
一人が教室から出ると、続く二人も、のびたもう一人を担いで出て行った。
「ご、ごめんね……私が不甲斐ないばかりに……」
「ハンカチこれ使ってください。自分を責めないでください、先生のせいじゃないです。俺がムカついたから、勝手に殴り飛ばした、ただそれだけです。……どんな罰でも受けます。」
なーんてカッコつけてしまったが……、やっちまった……。
もう学校に俺の居場所無くなるかもしれん……。
なんで俺はあーゆー男を見ると自制が効かなくなるのか……、前も一回やったから反省してたのに……
今日のことを思い出し、頭を抱えてうずくまっていると、
「さくと……ダイジョウブ?」
部屋の外から、アーニャの声が聞こえた。
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