誰がための財宝

 私には趣味がない。

 だからと言って、数カ月ぶりの休みをただ寝て過ごすなど、無意味な時間の浪費だ。


 計画性もなく外を歩き続けていると、一軒の小さな商店を見つけた。築年数を感じる佇まい。

 店に入ると、子供の小遣いでも購入できる菓子ばかりが並んでいる。奥には白い割烹着かっぽうぎの老年女性が座っていた。店主だろう。


 この地域が私の職場になったときに、地理は一通り覚えたつもりだったが……まだまだ勉強不足だ。

 

 懐かしい駄菓子の中に、薄切りにした食パンほどの絵本が並んでいた。どれも日に焼けて、背表紙の文字が淡い。

 適当に引き抜いて中を開くと、一枚の紙切れが挟まっていた。


 これは……地図か。


 簡略化されているが、店の周辺が描かれている。


 矢印が指すのは……近くの公園だな。

 正方形の隅に王冠のマーク……宝でも埋まっているのだろうか。


 店主に訪ねてみるが、私を子供と誤認しているようで、返答に要領を得ない。


 まあいい。どうせやることもないんだ。たまには童心に帰ってみようじゃないか。


 公園には数人の親子連れがいた。私に反応を示すことはない。


 先週、この辺りで大きな仕事をしたのだが……記憶に残せる結果を出せなかったんだな。精いっぱい努力したのに、何が悪かったのだろうか。


 空回る現実から逃げるように、私は手元の紙切れに目をやった。


 地図の示す場所はおそらく砂場だ。

 そう考え、囲いの隅を順番に手で掘っていく。砂の手触りが妙に心地いい。


 さすがに視線を感じた。だいの大人が一人で砂場遊びをしていれば当然だな。

 どうせどこの誰かも知られてないんだ。開き直って宝を探してやろう。


 三箇所目の隅を掘っていると、プラスチックのトイカプセルが出てきた。

 中には劣化した紙切れが一枚、また地図だ。

 次は……神社か。

 

 

 賽銭箱から右に七歩、左に八歩。ここだな。


 書かれた矢印と数字に従って進み、たどり着いたのは一本の植木。適当な石を拾ってきて、根元を掘る。


 周りには誰もいない。見ているとすれば神様くらいか。あとで私の行動が愚かだと天罰を下すかもしれないな。生産性も、意味もない。無駄な行為に興じているのだから。


 自分自身に呆れていると、土の中から小さな缶ジュースくらいの瓶が見つかった。

 中身を確認したそのとき、こちらに向かってくる足音に気づく。


 まずい、警察だ。

 ここでの行為を説明するのはややこしい。万が一、警察と一緒にいるところを写真にでも撮られたら、仕事に大きく影響するかもしれない。


 私は静かに急いで、その場を離れた。


 上手く警察を巻き、最初の商店へと戻る。瓶に入っていた地図が、ここを示していたからだ。


 店主に三枚の地図と、瓶に同封されていた折り紙のメダルを見せる。

 スリリングだった宝探しも、これでおしまいだ。


 店主は笑いながら、私にこう言った。

 「たからをみつけたんだね」と。


 ええ。見つけましたよ。きっと私が、無意識に探していたものを。


 私は毎日、行動の意味や結果だけを考え、利益や合理性ばかりを求めていた。

 だけど宝探しは普段と真逆。意味もなく、利益のない結果のために時間を費やした。


 だから掘り起こすことができたんだと思う。

 日々の仕事で失っていた「楽しい」という感情を。


 翌日から職務に戻った私は、仕事を楽しむことを意識し始めた。

 するとどうだろう、身の回りのことが少しずつ上手くいくようになってきたのだ。

 今までぎこちなく回っていた歯車が、ようやく噛み合った。そんな気分だ。


 きっかけをくれた店主には感謝しかない。


 受けた恩を返すためにも、私はより良い未来の地図を描かなくてはならない。

 住民たちの新しい市長として。


<終>

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