完全友情タイムカプセル

 掘り起こしたステンレス缶には、学校名と埋めた日付、直筆で書かれた生徒全員の名前と『タイムカプセル 開けないでください』の文字。


 よかったぁ~、誰も開けてなくて。


 私は安心して、固く閉じた封を破った。

 この匂い……なんか懐かしい。十年前の空気だ。




 まず取り出したのは一枚の画。これは私が書いたものだ。

 真っ赤な夕日と、廃校になる校舎を背に、笑顔で手を繋ぐ全校生徒の四人。


 私がすごく心配性だって知ってるみんなは「上手だ」って褒めてくれた。

 でも中学生の画にしてはへたっぴすぎるよ。




 次に取り出したのは縄跳びの紐。ももちゃんが使っていたやつだ。


 かけっことか鉄棒とか、運動はなんでも得意だったよね。

 先生も身体をじっと眺めては「筋肉のつきがいい」ってよく言ってた。


 今は東京の会社に就職して、実業団でマラソン選手かあ。

 ももちゃんのおじさんとおばさんには悪いけど、山奥の田舎で金物屋を継ぐより良かったと思う。




 あっ、だーちゃんが使った彫刻刀だ。

 だーちゃんの木版画は繊細であったかくて、大好き!


 今じゃ有名な版画家になって、都会で個展とか開いてるんだからすごいよ。だーちゃん美人だし、絶対人気出るって思ってた。

 つやつやで綺麗な黒髪は先生も毎日撫でていたっけ。よく我慢してたね。




 これは、ちかちゃんの使ったすずりだ。


 書道で食べていけるって尊敬しちゃう。この間もテレビに出てたからずっと観ちゃった。相変わらずおしゃべり面白かったよ!


 ……ちかちゃんはその明るさと言葉で、いつも私のことをかばってくれた。


 あの日。廃校になる卒業式の前日。

 私が教室で先生に乱暴されているとき、ちかちゃんが一番最初に叫んでくれた。


 その後のことは一生忘れない。


 三人が同時に走ってきた。


 だーちゃんが先生の腰に彫刻刀を刺した。

 ももちゃんが先生の首に縄跳びを巻いて締めつけた。

 ちかちゃんが先生の頭に硯を何度も振り下ろした。


 気づいたら、先生は動かなくなっていた。


 校舎には他に誰もいない。

 私達は台車に先生を載せて運び、森の中に捨てた。


 教室に戻ってみんなが掃除している間、私は画を描いた。

 窓から見た夕日を一面に描き、それぞれの服に飛び散った汚れに絵の具を重ねる。


 それから卒業式の最後で埋めるタイムカプセルに、使った物を入れて封をした。

 中身を知るのは私達だけ。当日は誰にも気づかれることなく、木の根元に埋めた。


 もちろん事件になったけど、手がかりが少なすぎて捜査は打ち切られた。

 証拠はないし、証言は四人で口裏を合わせたから。

 外面そとづらは良かったけど村の外から来た先生だったし、みんな関心が薄かったんだね。




 そして十年後の今日。

 唯一村に残った私が、最後の仕上げをする。


 明日のタイムカプセル開封式に備えて、当時から用意しておいた「もうひとつのタイムカプセル」を埋め直す。


 容器はももちゃんに同じものを用意してもらったし、書いた文字も一緒。

 前日に場所を確認するって周りに伝えてあるから、掘った跡も不自然じゃない。


 本当は何度も確かめようと思ったけど、今日まで我慢したんだよ。偉いでしょ。

 村で集団食中毒を起こして、みんなが寝てる隙に確認しようと考えたこともある。

 でも強すぎる薬剤しか持ってなかったから諦めたんだ。ざーんねん。


 ともかく、あとは容器と中身を処分すれば完全におしまい。

 村でカンヅメになっていた人生とさよならだ。

 

 嬉しくて、私は友情のタイムカプセルをぎゅっと抱きしめる。


 明日はひさびさにみんなと会えるのかあ……すっごく楽しみ!

 ももちゃんの話も、だーちゃんの話も、ちかちゃんの話も、いーっぱい聞かせてねっ!


<終>

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