あなたの人生はまだ続くのですから

「君に謝らないといけないと思っていたんだ。……迷惑をかけて本当に申し訳ない。今までのことも、先日の件も、謝罪させてくれ」


真面目な顔で私に謝罪するノーマン様は、今までとは別人のようでした。

ブティックに怒鳴りこみに来た時とは異なり、身なりもきちんと整っています。

この数日で何があったのでしょう。


「い、一体どうなさったのですか?」


ノーマン様がお怒りになる様子には慣れていますが、こんな風に真剣な顔で話すのには戸惑ってしまいます。

冷静に受け答えたいのですが、言葉が詰まってしまいました。


「先日、両親と話をしてきたんだ。最初は、怒りで父上にも食ってかかったんだが……泣いている母上と老け込んだ父上を見ていたら、段々と目が覚めたというか……。まあ、色々あったんだ。もう遅いかもしれないけれど、これからは真面目に生きようと心に誓ったんだ」


詳しいことは分かりませんが、ご家族で話し合いをして正気を取り戻したのでしょうか。


「そうでしたか、今後はどうするおつもりですか。屋敷を売ってしまわれるようですけど」


「隣国に貿易会社をやっている親戚がいるんだ。そこで働かせてもらうことにした。屋敷を売るだけでは賠償金には足りないからな」


力なく笑うノーマン様をみて、彼が本気で反省しているのだと分かりました。

隣国で働くならば、余計な評価や陰口を聞かずに済むので良いかもしれません。


「支払期日は延長できますので、無理なさらないでくださいね。真面目に生きるのに遅すぎることなんてありません。あなたの人生はまだ続くのですから」


「ありがとう、そうだな……。君とこんな風に話したのは初めてだな。もっと早く……いや、何でもない。あ、怪我の様子はどうだ?顔に傷が残ったら……」


「ご心配なさらず。この通り、もう大丈夫ですよ。……こうしてお話ができて嬉しかったです」


ノーマン様は少し驚いたような顔をした後、ふっと笑いました。

彼の言いかけた言葉はよく分かります。本当に、もっと早くこうしてお話したかったです。


「じゃあ俺はそろそろ……。本当に申し訳なかった。正式な謝罪は賠償金とともにさせてもらう。それじゃあな」


「えぇ、さようならノーマン様」





ノーマン様と会ったことで、胸のつかえが下りました。

制裁を下した相手がいつまでも不満や憎悪を募らせていると、いずれこちら側に刃を向けるかもしれません。

失うものがなくなった人は、何をするか分かりません。報復されるかもしれないという不安がいつまでも残っていると、生きた心地がしませんから。


勿論彼のしてきたことは許せませんが、反省して改心する権利は誰にでもあります。

彼が道を踏み外さず、真っ当な人生を生きてくれることを願いましょう。


それにしても、短期間であのような変貌を遂げるなんて……ご両親とどんな話をしたのでしょうね。

ご両親も改心させられるなら、最初からまともな息子に育ててほしいものです。そうでなくても長年放置しすぎではないでしょうか。

……なんて少しでも考えてしまうのは、私の性格が悪いからでしょうね。


まあ、もう解決したことなので、良しとしましょう。

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