爵位を剥奪させていただきます

ノーマン様が出て行った後、私はすぐに行動を開始しました。

先代公爵は爵位の返上は難しいと仰っていましたが、方法がない訳ではありません。


返上できないのなら、剥奪してしまえば良いのです。


早速ハロルドに連絡し、領民たちからの声を集めました。ノーマン公爵がこの領地には不要だという声を。


公爵代理であるハロルドに対する領民たちからの信頼は厚く、あっという間に嘆願書に署名が集まりました。


「こんな多くの方から署名をいただけるなんて、嬉しいような悲しいような……複雑です」


「領民の中には私のように仕事を押し付けられていた者や、無理な依頼をされた者が多くいますからね」


どうやら私が思っている以上に、領民たちは領主のことを見ていたようです。

領地を放置し、働かない公爵は不要であるとの判断が下されました。



――――――――――

貴族院 等級管理委員会 御中


ノーマン・ラングトリー公爵の爵位剥奪に関する嘆願書


ラングトリー領の領民一同(※別紙署名)は、以下の理由から、ノーマン・ラングトリーの爵位剥奪を要求します。


・爵位就任以来、領地運営に関与することなく公務を怠ったこと

・公務の大半を部下に強制委託し、手柄を強奪したこと

・上記の二点を指摘されても改善が見られなかったこと



〇月〇日

ラングトリー領 領民一同


――――――――――




嘆願書を提出してから一週間も経たないうちに、ノーマン様の爵位は剥奪されました。

通常は一ヶ月以上かかると聞いていましたので、驚くべき早さです。


「なぜこんなにも迅速に対応していただけたのでしょうか……」


ノーマン様の爵位が剥奪されたという通知を読みながら疑問を口にすると、書類整理をしていたハロルドが顔を上げました。


「どうやら先代公爵が口添えしてくださったようですよ。事態は深刻で、至急対応を求むと」


「……そうだったのですね。あとでお礼をお送りしておきます」


実の息子の爵位剥奪を支持してくださるなんて……先代公爵には苦渋の決断をさせてしまいました。

本当に申し訳ないです。

私が結婚当初から諦めずにノーマン様と接していれば、別の未来があったかもしれません。


訪れなかった未来にため息をつくと、ハロルドは何かを察したようでした。


「メアリー様、あまり気に病まないでください。あなたが手を下さなくても、公爵はこうなる運命でしたよ」


「きっと、そうね……」


今の選択を嘆くのは、領民にも失礼ですものね。前を向いて進むしかありません。

ハロルドや領民が後悔しないような領地にしていかなければなりません。





数日後、ノーマン様の屋敷が売りに出されているのを目撃しました。

差し押さえられたという話は聞いていませんので、ご自分で判断なさったのでしょう。

お金も爵位もなくなったら、遊んでいた女性たちも寄ってこなくなったでしょうね。

ようやく現実を受け入れてくださったのでしょうか。


少し前まで私もここに住んでいたのに、売られているのを見るのは不思議な気分です。


「メアリー……」


感傷に浸っていると、後ろから声をかけられました。

振り返ると、神妙な顔をしたノーマン様が立っていました。


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