第53話 大切なもの

53-1

初めての討伐練習の後週に1度くらいのペースでマリクとバルドは実践訓練をしていた

レベルも少し上がり、スライムは複数でも軽く倒せるようになるとフォレストドッグに移った

最初は遭遇した時の恐怖を思い出し固まっていたバルドも何度も向き合うことで慣れたのか倒すことができるようになっていた


「マリクそっち行ったぞ」

「分かった!」

マリクはレイの言葉に振り返り迫ってくるフォレストドッグに魔法を放つ


「もう一発」

言われるまま同じ魔法を放つと動かなくなった


「やった!」

初めて1人で倒したことにガッツポーズする


「よくやったなマリク」

「うん。やっと1人で倒せた」

嬉しそうな顔にカルムも駆け寄ってくる


「パパ倒せた!」

「偉いぞマリク」

カルムはマリクの頭をなでた


「おめでとうマリク」

「よかったな」

孤児院を出た3人の子供たちも祝ってくれる

何度か一緒に練習するうちにすっかり仲良くなっていて、彼らが上達したときも弾丸のメンバーはしっかり褒めていた

それが嬉しかったようでバルドとマリクが1歩進むごとに彼らはいつも祝ってくれるようになっていたのだ


「よし、そろそろ昼飯だ。お前らも一緒に食え」

レイがインベントリから大量のおにぎりやサンドイッチを取り出した

そのそばでトータがレイから受け取った肉を適当なサイズに切り分け焼き始めている


「いいんですか?」

「お前らいつもろくに食ってないだろ?こういう時くらいしっかり食っとけ」

カルムの言葉にみんなが顔を見合わせる


「僕たち何も返せないですよ?」

「いいんだよ。そんなもん期待してねぇんだから」

「そうそう。飯は大勢で食った方がうまいだろ?」

アランがそう言いながら立ち尽くしている彼らを座るように促した


「おいしーよ?」

マリクがそう言っておにぎりをみんなに手渡していく

戸惑いながらも食べ始めた彼らの顔が自然とほころんでいった


「うまい…」

「だろ?こっちも食ってみろ」

焼きたての肉を串ごと渡したトータは自らも食べている


「お前らは人より大変な思いしながら生きてきたんだ。周りに甘えられるときは甘えりゃいい」

カルムが言う


「自分がしてもらって嬉しかったことはいつか自分に余裕ができた時に余裕のない奴に返してやればいい」

「…」

「これも何かの縁だしな。困ったときはいつでも言ってこい」

「…ありがと…ございます」

子供が大切にされるこの国でも当然のように成人を迎えるまで引き取り手に恵まれない者もいる

彼らはたまたまその恵まれなかった者達だ

養子を迎えているカルムはとくにほっておくことなどできなかったのだろう


その時上空を緑の光が包んだ

「!」

レイがすかさず立ち上がる


「トータ、片付けとチビ達頼む」

「アラン医者」

「OK」

アランは言われるまでもなく馬で飛び出していった


「一体…?」

「あぁ悪い。俺の嫁が産気づいたらしい」

「「「え?」」」

3人が呆然とする


「バルドとマリクはトータと帰ってこい」

「「うん」」

「トータこいつらも」

「分かってる。町に送り届けてから帰るよ」

「頼むな」

レイとカルムは皆と別れて家に急いだ



◇ ◇ ◇



「ママ、ちゃんと出来たよ」

「ありがとリアム」

ナターシャさんはリアムの頭をなでる


「メリッサ、リアムとシアお願いできる?ヘンリーもいて大変だと思うけど…」

「大丈夫よ。リアム、シア、ヘンリーと遊んでくれる?」

メリッサがそう尋ねると2人とも嬉しそうにメリッサの後をついていく


「サラサちゃん大丈夫よね?」

「ありがとナターシャさん…2人目だし前よりまし…」

その時玄関が騒がしくなった


「サラサ!」

レイが駆け込んでくる


「レイ…おかえり」

「ああ。上に運ぶぞ?」

「ん」

頷くとレイに抱き上げられ2階に運ばれた

カルムさんはレイと下で待つことになり医者を呼んできたアランさんはメリッサさんを手伝いに行った



◇ ◇ ◇



「今回は双子なんだよな?」

「妖精が言うにはそうだな」

レイは頷く


「シアの時は10時間くらいかかってたしメリッサがヘンリー産んだ時でも8時間だったか…双子だとどうなるんだ?」

カルムが尋ねる


「サラサは2人目以降は時間も短くなるはずだって言ってたけど双子だとどうなるかは…」

レイはそわそわしながら立ったり座ったりを繰り返す

30分ほどした時トータが2人を連れて戻ってきた


「産まれた?」

「いや。まだだ」

「バルド水分補給ちゃんとしとけ」

「わかった。マリク行こう」

「うん」

マリクは頷いてバルドの後をついていく


「レイ食うもん出してくれ」

「ああ」

レイは適当にインベントリから取り出したものをソファテーブルに置いた



◇ ◇ ◇

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