第52話 初めての討伐

52-1

「サラサ姉ちゃん!魔法使えた!」

そう言って家の中に飛び込んできたのはバルドだ

庭を拡張した後からマリクとバルドはナターシャさんから魔法の操作を教わるようになったのだ

雨の日は庭で採取を、晴れの日は魔力操作の練習をするのが朝のルーティンとなっている


「ほんと?すごいじゃない」

飛びついてきたバルドを抱きしめる

その周りをシナイが嬉しそうに飛び回っていた


「まだ水を出すことしかできないけど…」

「それでもすごいことよ?」

「でも…うまく操れないよ」

「今日使えるようになってすぐに操るのは無理だろうけど…バルドなら魔物倒すよりも庭の水やりで練習するのもいいかもしれないわね」

「水やり…そっか使いこなせたらそんなことも出来るんだ…」

自分の好きなことに直結するとわかるとさらに嬉しそうだ


「僕だって使えるようになるもん」

すねたように入ってきたマリクにバルドは戸惑う

どうやらマリクはまだ使うことができないようだ


「大丈夫よマリクもちゃんと使えるようになるわ。実際使ったことがあるんだから…ね?」

ナターシャさんが抱き上げる


「バルドはお兄ちゃんだから理解しやすかったのかもしれないね」

「…」

「そうよマリク。4つも離れてるんだからできなくても恥ずかしくなんてないのよ?」

「ん…バルドお兄ちゃんも教えてくれる?」

マリクは縋るような目で見る


「もちろんだよ。でもそのうちマリクに追い越されそうだけどね」

バルドが苦笑しながら言うとマリクもやっと笑顔を見せた


「さぁ、お昼ご飯にしましょうか」

キッチンでパタパタと動いていたメリッサさんの声でみんながテーブルにつく


「ごめんねメリッサさん任せきりで」

「気にしないで。サラサちゃん予定日まで1か月切ってるんだから…」

「しかも双子でしょ?」

「妖精たちが言うにはそうみたい。男の子と女の子だって」

「初めての女の子!」

ナターシャさんが興奮気味に言う


「絶対みんなにお姫様扱いされるよね」

今は子供が男の子しかいないだけにそれはほぼ決定だろう



◇ ◇ ◇



1週間後、マリクも風魔法を使えるようになったため、弾丸のメンバーとマリクとバルドは草原に出かけた

マリクにはアランが、バルドにはカルムが付き添っている


「とりあえずスライムからだな」

ということでレイたちは魔物を捕まえてくる役目だ

練習用にひたすらスライムを捕まえてくる

そしてそばに放したスライムを攻撃していくという作業が繰り返されていた


『バルド大分様になってきた』

シナイがそう言うとバルドはどこかほっとしていた


「バルドはそろそろ休憩な」

「え…」

夢中になっていただけにバルドは嫌そうな顔をする


「足がもつれてるだろ」

そう言われると返す言葉がない


「焦らなくても俺たちが付き添うのは今日だけじゃないぞ」

トータがバルドの頭をグリグリしながら言った


「本当?」

「ああ。少なくともフォレストドッグが簡単に倒せるまではな」

「フォレストドッグ…」

前に遭遇した時の事を思い出し背筋がぞくりとする


「町から家の間で出る魔物はフォレストドッグだけだ。それが倒せるなら町の行き来も安心できるだろ?」

一度魔物と遭遇してからバルドは一人で町に行くとは言わなくなった

魔物への恐怖で起きた発作への不安

でもそれは魔物に対する恐怖に打ち勝つことができるなら不安も解消するということだ


「うん…」

「とりあえず俺らと来るときは実践、ナターシャとする時はコントロールの練習だ」

『バルドなら大丈夫だよ』

シナイが言う


「そうかな…」

『うん。ボクもついてるしね』

「そうだね…ちょっとずつ頑張るよ」

その言葉にカルムがバルドの頭をなでた


「スライムでしばらく練習してればスキルレベルも上がる。フォレストドッグに進むのはその後だ」

「レベル自体が上がれば体力も強化されるしな」

「体力も?」

「ああ。少しだけどな。だから何も焦らなくていいんだよ」

カルムの言葉にバルドは頷いた


「バルドお兄ちゃん今日はもう終わり?」

マリクが息を切らせてそばに座り込む


「僕は体力がないから終わりかな。マリクはまだやるのか?」

「も…無理ぃ」

そう言いながら寝転がってしまった


「随分頑張ってたな?」

「諦め悪いんだよ。カルムに似て」

トータの言葉にアランは苦笑しながら言う


「すぐ諦めるような育て方はしてないからな」

カルムが笑いながら言う


「そういやレイは?」

「あいつは向こうでつかまってる」

「むこう?」

アランの見た先に人の塊が見える


「なんだ?」

「施設を出た奴らだな」

「は?」

「例の薬草採取中の護衛?」

「ああ。それとレイに何の関係があるんだ?」

カルムが首をかしげる


「スライム集めてる途中で練習してんの見てほっとけなかったらしい」

「あーあいつら誰にも稽古つけてもらえてないのか」

「全くではないみたいだけどな。一応Cランクのスタッフはいるみたいだし…ただ魔法系はいないんだと」

アランはそう言いながら水を取り出す


「なんだ、それなら今度やるとき声かけてやるか?数人増えても問題ないだろ?」

「あぁ。俺は別に構わねぇよ」

「俺も」

カルムの言葉にアランもトータも同意する


「じゃぁ伝えて来るよ」

カルムはそう言ってレイたちの方に行きしばらく話をしてからレイと共に戻ってきた


「どーだった?」

「喜んでたよ。一応今度する時は前日に孤児院に伝言残しとくことになった」

「OK」

「なに?」

「今度練習する時に孤児院を出た子供たちと一緒にすることになったんだよ。他の人の戦うのを見て学べることもあるからお前らにとってもいいだろ」

「ふーん…」

バルドはよくわからないといった顔だ

マリクは普段関わらない人とかかわれることを単純に喜んでいる


「さて、じゃぁ今日は帰るか」

カルムの言葉でみんな家に向かって動き始めた

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