51-2

「…ラサ……ア…」

かすかに聞こえる苦し気な声に目を覚ます


「レイ?」

レイの方を見ると冷や汗を流しながら苦し気な表情のままうなされている


「ママ…」

「シア、起きちゃった?」

「ん…パパまた苦しそう」

シアは心配そうに言う

シアですらまたと言ってしまう程レイは頻繁にうなされているのだ

1日の間殆どを寝て過ごしているにも関わらず熟睡など出来ていないのは明らかだった


「そうね…カーロ」

『なにー?』

「起こしてごめんね。ちょっとシア見ててくれる?」

『わかった。シアおいで』

カーロはベッドの脇まで来てシアを乗せて窓際に戻っていった


私はそれを確認してからまだうなされ続けているレイの頭を胸元に抱きよせる

「レイ。大丈夫だから…」

背中をさすりながら言い聞かせるように何度も繰り返す

レイの呼吸が落ち着いてきたのは10分程してからだった

それを感じてホッとする

でもこのままではだめだということだけは分かっていた



暫くするとカルムさんが部屋を訪ねてきてくれた

「呼んでるって聞いたけど…レイは寝てるのか?」

「うん。さっきようやく落ち着いたところ」

そう答えながらソファに促して向かいに座る


「で?」

「…ちょっと間、元の家に戻ろうかと思って」

一度レイを見てからそう告げた


「…まぁこんな状態をレイもあんま見られたくないか」

カルムさんはため息交じりにそう言った


「それもあるんだけど、ここにいる限りレイは弱音を吐けないんじゃないかと思って」

「弱音か…確かに昔サラサが失踪した時と比べりゃ落ち着いて見えたな。でも攫われたと知った瞬間の殺気は…」

「殺気?」

それは初耳だった


「ああ。攫われたと知った瞬間跳ね上がった。ギルドの中にいた俺やギルマスでも慌てるほどの恐ろしい殺気だった」

カルムさんはつぶやくように言いながらレイを見た


「こいつなりに抑えてたってことなんだろうな…俺達やチビが沢山いれば…まぁそうなるか?」

「実は…前にも一度こんな風になったときがあったの」

「は?いつ?」

「スタンピードで私が死にかけた後」

「…原因はお前を失いかけたこと、か…」

「多分。今回はそこにシアとお腹の中の子も…」

その言葉にカルムさんは納得したように頷いた


「わかった。皆にはレイが精神的に参ってるとだけ言っとくよ。お前の事だ、すぐにでも行くつもりなんだろ?」

「そのつもり。レイが起きたら行こうと思ってる。レイの心を引き戻すきっかけがあるとしたらあの家しか思い浮かばないから」

「了解。何かあればカーロを使いに寄越してくれ」

「そうする。ありがとうカルムさん」

「それはこっちのセリフだ」

カルムさんは苦笑してそう言うと部屋を出て行った


「ママどっか行くの?」

「うん。この家に来る前に住んでいたところよ。シアもカーロも一緒にきてくれる?」

「『うん』」

「ありがとう。じゃぁレイが起きたら行こうね」

「それまでカーロと遊んでていい?」

「いいわよ」

『サラサ、ベランダは?』

「いいわよ。ちょっと待ってね」

ベランダくらいなら問題ないだろうと窓を開けた

シアとカーロはしばらくベランダと部屋の中を行ったり来たりしながら遊んでいた


「…ん……サラサ?!シア?!」

目を覚ましたレイが隣に誰もいないことに気付き飛び起きた

「あ、レイ起きた?」

「サラサ…シアは?」

部屋の中を見渡しながら訪ねるレイの顔がこわばっている


「いるわよ。シア、パパ起きたわよ」

「はーい」

返事と共にカーロとシアがレイの腕の中に飛び込んだ


「おはようパパ」

「…ああ…」

レイは温もりを確かめるようにしっかりと抱きしめる


「レイにお願いがあるんだけど」

「何?」

伸ばされた手を掴むと引き寄せられる


「この子たちが生まれてくる前に一度前の家に行きたいなって思って」

「…あぁ…いいな」

少し穏やかな表情になった


「すぐにでも行けるようにカルムさんにはもう伝えてあるんだけど」

「じゃぁ行こう」

レイはシアを抱き上げ私を支えながら部屋を出た

そのまま外に出ると馬を用意する


「僕、カーロの上でもいい?」

「ああ」

レイは頷くとシアをカーロの上に載せる

そのまま私を馬に載せると自分も飛び乗った

生気もなく食事もほとんどしていないのに大したものだと、どこかで思いながら私たちは以前住んでいた家に向かった

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