第51話 レイの異変

51-1

事件が解決した数日後、犯人たちは王都で裁かれることになったと知らせを受けた

自分たちの意のままに貴族の後ろ盾を得ようとしたこの事件は、ギルドが『Aランクパーティーの認定基準を見直す』と発表したことも加わり、かなり大きな問題として冒険者の間で急速に広まっていった

今後は数年ごとに更新の可否を審査することも視野に入れているとか


町は比較的落ち着きを取り戻すのも早かった

皆がサラサ達を労わってくれる以外は元の日々に戻っていた

でもそうではないのが一人…




「サラサちゃんこれご飯」

ナターシャさんが持ってきてくれたのは私たち3人分の食事

それを慣れた手つきで狭いソファテーブルに並べていく


「ごめんね、面倒なこと頼んで」

「私は別にいいんだけど…」

ナターシャさんの視線は私を抱きしめるレイに向けられる

でもレイは何の反応も示さない

事件の日からレイはずっとこんな感じだった

私を離さないだけでなくシアが見えないところに行こうとすると呼び戻す

結果、この部屋から出られなくなってしまったのだ


「ナターシャさん、カルムさん帰ってきたら呼んでもらってもいいかな」

「了解。伝えとくわ」

ナターシャさんは頷き戻っていった


「シア、カーロ、ごはんだよ」

「はーい」

『ごはん!』

シアもカーロもすぐに応接セットの方にやってきた

テーブルに並んでいる料理を思うままに平らげる


「レイも食べよう?」

「…ああ」

そう頷くレイに何故か抱き上げられて運ばれる

最初はやめさせようとしたその行為も無駄だと悟り今は好きにさせている


「ママ」

「ん?」

「パパまだあまえんぼ?」

「そうだねぇ…病気みたいなものであまえんぼとはちょっと違うんだけどね」

苦笑しながら返す

今のレイには私とシアの声しか届いていないようで、その声に対する反応もかなり薄い

目の光がないところを見る限り、以前と似たような状況になってしまったのだと思ってはいるのだけど…


「元のパパに戻る?」

「そのうち戻ると思うんだけどね。でもそれまではシアに我慢させちゃうかな」

「僕は大丈夫。カーロがいるもん」

シアは特に気にした様子もなくカーロにじゃれついた

でも時々寂しそうにレイを見ているのには気付いていた

大好きなパパが突然生気のない人形みたいに変わってしまったのだから当然だろう

自分を呼んでくれる

抱きしめてもくれる

でもその目にちゃんと映っているようには感じられない

幼いシアにそれを我慢しろと言うのはあまりにも酷な話だ


事件の直後、人に向かって力を使ったことを自覚していたシアはしばらく泣き続けていた

何度も言い聞かせ、大丈夫だと伝え続けて何とか笑う様になった今でも、時々引き戻されたかのように泣き出し抱き付いてくる

レイがこの状態なだけに嫌われたんじゃないかと怖がってるのも、その理由のひとつではあるのかもしれない


「シア、ご飯食べたらパパと一緒にお昼寝しようか」

「…ママも一緒?」

そう尋ねるシアの目は揺れている


「勿論よ」

『ボクも―』

「そうね。カーロも一緒に皆でお昼寝しましょうね」

「うん!」

シアはホッとしたように頷いた


「レイ、もういいの?」

「ああ…あんま腹減ってない」

「そっか…。ね、みんなでお昼寝しよ?」

「そうだな。シア来い」

「うん!」

抑揚のない声でも呼ばれると嬉しいのかすぐに飛びついてくる

シアを抱きしめたままベッドに倒れこむとレイはそのまま眠ってしまった


「パパもう寝ちゃった?」

頭上から聞こえる寝息にシアが首を傾げながら訪ねてきた


「寝ちゃったねぇ…」

2人で笑いあう

少しするとシアもレイの温もりに包まれたまま眠りに落ちた


「カーロはそっちでいいの?」

『お日様の光が気持ちいい』

窓際で丸くなるカーロはどこかで外を感じていたいのかもしれない

パタパタと揺れる尾がどこか楽しげだった

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