50-5

「こっちはもう大丈夫だぞ」

カルムの声に振り向くと4人が縄で縛られていた


「サラサもシアも無事で良かったよ…」

アランが気が抜けたように笑いながら言った


「でも一体これは…」

カルムが瓦礫と化した辺りを見回しながらつぶやいた


「サラサ、お前は魔封じの腕輪をされてた。一体何があった?」

「結論から言えば小屋を吹き飛ばしたのはシアよ」

「…念動力か?」

レイが尋ねるとサラサは頷いた


「リーダー格の男が痺れを切らせて私の首にナイフを突きつけたの。それを見てずっと耐えてたシアが泣き出してその男は力加減を誤った」

サラサはそう言いながらその男を見据えた


「傷口から流れた血がシアに…その瞬間に起こったのよ」

止める間も無かったとサラサは言った


「だからお前らの周りだけきれいなのか」

トータの言葉に皆がそのことに気付く

2人の周りにだけ瓦礫の欠片すら存在しない


「さっきシアが怯えたのは?」

「多分…嫌われるとか怒られるとか…そんなことを思ったんだと思う」

「何で?シアは何も…」

「そうなんだけどね、私たちの元の世界では人を傷つけることは罪だから」

3歳なら何となくでも理解していただろう

まして入院して過ごしていたのならなおさらだ


「馬鹿だな…」

レイは眠ったままのシアの額に口づける


「事情は分かった。ナターシャも心配してるからとりあえず戻ろう」

カルムがひと段落したのを見計らってそう言った

そのタイミングでギルドマスターに連絡を入れ、山の麓まで“孤高の集団”を引き取りに来てもらう手はずを整えた

トータも通信機で後ろ盾の貴族に無事を伝え、後日屋敷を尋ねる約束をした


「レイ、こいつらこんなもんまだ持ってんだけど」

アランが彼らの装備のポケットから取り出したのは魔封じの腕輪だった


「丁度いいから嵌めとこうぜ」

トータが2つを受け取りアランと2人で嵌めていく


「あ、言っとくけど逃げれるなんて思わない方がいいぜ?カーロは匂いを辿ってお前らを探し出すくらい朝飯前だからな」

『うん任せて。もう匂いも覚えたから』

「喜べ、お前らの匂いは覚えたらしい」

レイが笑いながら言うと4人は怯えた表情を見せた

まぁ神獣が追いかけて来るとなればとうぜんか?


「家まで歩けるか?」

「大丈夫よ。ゆっくりなら…」

『ボクに乗る?』

「ありがとカーロ。でも今のカーロに私が乗ったらあなたが潰れちゃうわ」

子供達が乗る分には問題なくても大人が乗るのは厳しいサイズだ


『それなら問題ないよ』

「え?」

『これなら問題ないでしょ』

次の瞬間カーロは大人のライオンほどの大きさになっていた


「お前巨大化までできたのか?」

『30分くらいが限界だけどね。家までなら問題ないよ』

得意げに言うカーロに皆が驚いていた


「サラサ、ここは甘えとけ。山道をその体で歩くのは無謀だ」

「…そうね。カーロお願いしてもいい?」

『勿論』

カーロはそう言うと伏せの体制をとった

レイに支えてもらいながらカーロの背に乗ると尾が背中を支えてくれる


「…子供たちが病みつきになるのが分かったわ」

「そんなにいい乗り心地か?」

「流石神獣って感じ?」

「それは…カーロ今度俺も乗せてくれ」

『今度ね』

今日は無理だよというカーロにレイは今日は期待してないと返す

山の麓まで降りるとギルマスたちが待ち構えていた


「サラサ無事で良かった」

「おかげさまで。皆さんに尽力いただいたみたいで…」

「こいつらをAランクパーティーにしたギルドに責任がある。今度改めて謝罪する」

「ギルマス、このこと森の管理してる爺さんにも伝えてもらっていいか?森を探すのに協力してもらってたんだ」

「分かった。すぐに人をやる」

ギルマスがそう言うと側にいた男が走って行った


「それにしても王族所有の山に立てこもるとは…奴隷落ち確実だな」

「は?王族所有?」

4人が驚きながらそんなこと知らんかったと訴える


「知らなかったなど言い訳にもならない。だからこそ俺達もこの麓で待ってたんだからな」

「だったらあいつらは…」

レイ達を見てこいつらも同罪だと訴える


「残念ながら後ろ盾の貴族から王族に許可を取って貰ってる。お前らをギルドに差し出すことが条件でな」

「その条件が無かったら上で殺せたんだがな」

レイの殺気の籠った言葉に4人が黙り込んだ

実際カーロがこの山に踏み入れようとした時にトータから貴族に連絡を入れている

王族にはAランクパーティーが民間人を拘束して王族所有の山に立てこもったからと救出の許可をもらったのだ

王族は不届きものをギルド経由で差し出すことを条件に許可を出した

その間数分の事だった


「ほんと、いい後ろ盾だな」

「そうだな」

トータの言葉にカルムが頷いた


「お前らに教えといてやるよ。貴族は一方的に利益を享受しようとする冒険者には興味がない」

「!」

「ま、犯罪者となったお前らには関係ないことだけどな」

そうトドメを指したのはレイだった


「サラサにはまた事情を聴くことになるかもしれないが…」

「分かりました」

「すまんな。今日はこのままこいつら引き取ってくからゆっくり休んでくれ」

ギルマスの言葉に皆が動き出す

カルム達は家に向かって再び歩き出した


家に帰るとナターシャとメリッサが起きて待っていた

シアとサラサの無事な姿を見て泣きながら抱きしめ、ようやく日常が戻ったことを皆で喜びあっていた

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