50-4

「なんつー場所に…」

カーロが進もうとしているのは、殆ど人の手の入っていない王家所有の山だった

こんな場所普通の神経をしていたら入ることは無い

捜索していたのは貴族ですらない一般人だ

貴族ですら踏み入れられない場所に一般人が踏み入れるはずがないのだ


「見つからないはずだ…」

カルムが吐き捨てるように言う

皆同じ気持ちなのか一様に胸糞悪そうな顔をした


「トータ、連絡取れ」

「ん?あぁ」

トータはカルムの言葉に通信機を起動させた


繋がるとカルムが軽く挨拶をした後事情を説明した

居場所は分かったが王族所有の山だと伝えると彼は少し待つようにと言って一度通信を切った


待ってる時間が異常に長く感じる

いら立ちが募る中レイが立ちあがる

「俺もう…」

「ダメだレイ。別の意味で最悪の事態になる」

カルムが何とかレイを引き止める

そんなことが何度か繰り返されたとき通信機に反応があった

彼は条件付きで山に入る許可を得たと告げた

話を聞き皆が顔を見合わせ頷いた


「行こう」

許可を得るなりカーロを促し再び走り出す


『人間は面倒だね』

「…そうだな」

確かにその通りだと皆が苦笑する

力だけが全てならねじ伏せてでも通れるのだ


「権力ってのは本当に厄介だ」

「でも今回ばかりは後ろ盾になってもらってて良かったな」

「ほんとにな。あんな変わったおっさん他にはいないだろうし…」

トータの言葉にカルムが苦笑する


「確かに貴族らしくないおっさんではあるな」

「…権力が無駄なだけじゃないってことは認めてやるよ」

レイが吐き捨てるように言う


「でもあのおっさんだけで十分だ」

「それには同意」

「「俺も」」

皆それぞれに思うところがあるのだろう


「近いな」

「え?」

「サラサの気配。シアの気配も」

レイの言葉にみんなが胸をなでおろす

気配があるということは最悪の事態にはなっていないということだ


「カーロ、お前が知ってることを教えてくれ」

『ボクは殆ど知らないんだ』

「え?」

『突然呼び出されてレイ達を連れて来てって言われた』

カーロの9本の尾が同時に下がる

それはしょぼくれている時の仕草だ


「悪い、責めてるわけじゃないんだ。何かわかれば助け出す時の手がかりになるからさ」

『…僕が呼び出されたとき、隣の部屋から4人の気配がした。まだ動きはないのかって怒鳴ってる人がいたんだ』

カーロは出来るだけそのことを思い出そうとしているようだった


『サラサはソファに座ってて、シアはその横にいた』

「床に転がされてるとかではないんだな?」

『うん。でもシアの首にロープが巻かれてた。ロープの端は隣の部屋まで続いてた』

「な…?」

レイの顔色が変わった


「そうやって脅してるってことか…下手な動きをすればシアを…」

「なんて野郎だ…まだ幼いのに…」

サラサのストレスもシアの恐怖も計り知れない

早く助けなければと皆はやる気持ちを隠しきれていなかった


『あの小屋だよ』

カーロが木陰で立ち止まったその先に小ぎれいな小屋があった


「中の様子が分からない以上簡単には踏み込めないな…」

「ああ、相手は高位ランクの上に常識が通じない」

みんなでどうするか話していると突然爆音が響いた


「「「「?!」」」」


振り返ると小屋が木っ端みじんになりサラサがシアを抱きしめている姿を捉えることが出来た

「サラサ!シア!」

レイは咄嗟に走り出した


「こっちは任せろ」

『ボクも行く』

小屋と一緒に吹き飛び地面に打ち付けられた男たちは気を失ったりのたうち回ったりしている

3人と1匹で4人をそれぞれ拘束しに向かう


「レイ…!」

サラサがホッとしたような表情を見せた

でもその腕の中でシアは泣き続けていた

レイは真っ先にシアの首からロープを取り払った


「この血は…?」

シアの頬と手を赤く染める血の元をたどるとサラサの首に行きついた


「お前その首…」

首筋が切れそこから血が出ていた

深くはないとわかっても、いつでも最悪の事態になっていたのだと突き付けるには充分だった

それを見た瞬間レイはサラサを抱きしめていた


「レイ、大丈夫だからこれ外して?」

サラサは困ったように笑いながら腕を出した


「魔封じの腕輪か…」

苛立ちを覚えながらも腕輪を破壊する

するとサラサは自分の傷を癒しシアごとクリーンをかけた


「シア、もう大丈夫よ。ほら、もう傷口もないでしょう?」

優しく語り掛けるサラサにシアが顔を上げた


「ママ…」

「ありがとうシア。あなたのおかげで皆無事よ。だから今はもう、パパに抱っこしてもらってゆっくりお休みなさい」

「うん。パパ…」

レイに向かって手を伸ばすシアは何かにおびえているように見えた

それに気づいたレイがサラサを見るがサラサは静かに頷いただけだった


「おいで」

伸ばされた手をしっかりとつかみ抱き上げた


「よく頑張ったなシア。偉いぞ」

「パパ…」

そう言って自分を抱きしめてくれる温もりに、シアはそのまま意識を手放した

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