50-3

---side:アラン---

レイ達と別れて俺が訊ねたのはボロイ家だった

「珍しいな?お前さんがこんなところに来るのは」

「突然来て悪いな爺さん」

「構わん。お前さんには世話になってるからな」

爺さんは笑いながらそう言った


「で、何かあったのか?」

「ああ。俺の仲間の家族が攫われた」

「何?」

「あんたが気に入ってるその籠を作った人だ」

「サラサとかいう嬢ちゃんか?」

「ああ」

頷くと爺さんの顔から笑みが消えた


「犯人は分かってる。奴らは俺らに要求を突き付けてどこかに立てこもってる」

「なるほど。言いたいことは分かった」

「森の隠れられそうな場所は爺さんたちの方が詳しい。でも見つけるだけでいいんだ。相手はAランクのパーティーだから」

「なるほど。わしらが手を出したところで返り討ちになるだけで、最悪嬢ちゃんに危害が加えられるか」

「ああ」

「理解した。すぐにみんなと連絡を取るよ」

「見つけたらギルマスに伝えてくれ。他に頼れる人に心当たりがいないんだ。巻き込んですまない」

「気にするな。わしらはいつも通り森の管理をするだけだ」

爺さんはそう言って俺を安心させるように笑った


「この仕事も元をたどれば嬢ちゃんのおかげでできたもんだからな。それが役に立つならこれほどうれしいことは無い」

「ああ、そうだな」

力強い言葉に励まされる気がした

爺さんと一緒に家を出ると俺は走り出していた

------



---side:レイ---

俺は真っ先に憲兵の元に向かった

“孤高の集団”が出入りした記録があるのかを確認するために


「この1か月この門は通ってないな」

「そうか…」

「でもこの町にはあと2つ門がある。そっちを通ってる可能性もあるんだろう?」

「ああ、今からそっちにも行ってみるつもりだ」

「その必要はない。ちょっと待ってろ」

憲兵はそう言って小屋の中に入っていった

少し待っていると首を横に振りながら出てきた


「残りの2つも通ってないな」

「そんなことわかるのか?」

「ああ。門と門を繋ぐ転移の魔道具があるんだ。飛ばせるのは紙1枚だけど情報のやり取りくらいは出来る」

「そんなものが…」

初めて聞く話に驚きながらも感謝しかない


「この後近隣の町にも確認してみるよ」

「それは助かる。もし何かわかればギルマスに伝えてくれ。このことはカルムがギルマスに話を通してるから」

「分かった。近隣から王都くらいまで少しずつ範囲を広げながら確認してみるよ」

憲兵はそう言うと時間が惜しいと言いながら再び小屋に入っていった

門を通った形跡があればそっち方面に捜索範囲が絞れるはずだ

今は何の手がかりもないがその内少しずつ情報が出て来るだろう

そうわずかに期待しながら俺は町の外に向かって走り出した

サラサだけじゃない

シアも、腹の中の双子も絶対に助けて見せる

そのためにも休んでる暇なんてない

そう思いながら…

------


夜になり辺りが暗くなると皆一度家に戻る

あらゆる情報を共有しながら今後の対策を考える

それでも有力な情報は入らず、見つからないまま既に3日が経過していた

かなりの数の冒険者が捜索に加わっているにも関わらず足取りがつかめない

その異常な状態は精神的に追い詰めるには充分すぎた


レイの憔悴しきった姿がその想いの強さを表していた

他のみんなも最悪の事態が時々よぎる様になっていた


「サラサちゃんもシアも一体どこに…」

ナターシャが悔しそうにつぶやいた

強い魔力と共に何かが飛び込んできたのはそんな時だった


皆が警戒態勢を取った瞬間その姿が形となった

「カーロ…?」

「カーロ、サラサは…?!」

カーロはサラサと共にいるはずだった

でも今、付近にサラサの気配はない


『レイ、サラサに連れて来るように頼まれた。案内するから付いてきて』

カーロはそう言った


「ナターシャ達は子供達をここで見ててくれ。必ず無事に連れ戻すから」

レイがそう言うとナターシャは力強く頷いた

カーロが頼まれたと言っているということは少なくともその時までは無事だったのだ

落ち着いている様子からしても最悪の事態にはなっていないと思えた


「あなたたちも無事で戻ってきなさいよ」

「ああ、分かってる」

カルムが言うと3人も頷いて返す

それを見てカーロが走り出した

それを皆で追いかけたものの、カーロが入ろうとした山を前に皆は立ち止まってしまった

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