39-2
「これからは違うでしょ?」
「え?」
俯いてしまったバルドが顔を上げた
「この間みたいに我慢せずに処置した方がすぐ楽になれるってわかったでしょう?」
「ん…」
「バルドが日々を楽しんでる。それだけでもリルは嬉しいと思うよ?」
「そんなわけないよ…」
自分が楽しんでリルが嬉しいなんて信じられないという顔をする
「大丈夫よバルド。そのうちリルにも心の余裕ができるはず。そしたらリルの笑顔も自然と増えるでしょ」
「ほん…とぅ?」
「ええ。私が保障してあげる」
ナターシャさんは任せなさいと胸を叩いた
「バルドとリルだけじゃない。みんなで幸せになるのよ」
「「みんなしあわせー」」
マリクとリアムが笑顔で言う
「ママいつも言ってる」
「そうねマリク。よく覚えてるわね?」
「うん。パパもよく言ってるよ」
「レイお兄ちゃんとサラサお姉ちゃんも言ってるもん」
リアムが負けずに名をあげる
ムキになる姿は本当にかわいい
「そう。みんなで幸せになるんだよね」
「「うん」」
「僕幸せ。村の人みんないなくなっちゃったけど今はママたちがいるしみんな大好き」
「僕も。ママ、ボクもう一人にならないよね?」
「もちろん一人になんてしないわよ。リアムがイヤって言ってもママはリアムを離さないもの」
そう言いながらリアムをつかまえる
つかまったリアムは嬉しそうに笑っている
「バルドお兄ちゃんもいっぱい遊んでくれるから大好きだよ」
「うん。色々教えてくれるもん」
2人の言葉にバルドは困ったように笑う
「この子たちが無理に言ってるように見える?」
そう尋ねると首を横に振った
「人って小さな言葉一つでも驚くほど幸せになれるでしょう?」
からかうように言うとバルドはくしゃくしゃな顔で頷いた
「悲しい事だけど、バルドが身体が弱く生まれてきたことは誰にも変えることは出来ないわ。大切なのはその体と向き合って、受け入れて生きていくこと」
「向き合って受け入れる?」
「そう。難しいことかもしれないけどね…『この体のせいで』ってずっと思い続けるのと、『この体でも』って思い続けるのとでは先に待ってるものはかなり違うと思うのよ?」
「この体でも…」
「魔物のいるこの世界はとても厳しい世界だと思うわ。当たり前の幸せがある日突然簡単に奪われてしまう世界だものね。そのことをバルドもマリクも、リアムも嫌と言う程知ってるわよね」
そう尋ねるとバルドは頷いた
「生きたくても命を奪われてしまう人が沢山いるわ。あなたたちのように愛する子供を置いていかなければならなかったご両親の無念も計り知れない。そんな人たちがいるなかでもバルドは生きてるのよ」
「…」
「辛い思いを沢山してきたかもしれない。でも生きてる限り未来を望むことが出来るの。大切な人の側にいることもね」
「ん…」
「焦らなくてもいいから…少しずつ前に進もうね」
「そうよバルド。実際に、あなたはここに来てからちゃんと成長してるわ」
「成長?」
「ええ。何もできないと言ってたバルドがこうして一つの作品を作り上げたのよ?」
「でも沢山失敗してる」
バルドの側の木のケースには大量の失敗作が入っている
「でもバルドは作り続けたじゃない。私ならもっと早くに諦めてしまってるわよ」
ナターシャさんは言う
失敗は成功のもと
できるようになった人はできるようになるまで諦めなかった人
そんな言葉が頭をよぎった
「人には向き不向きもあるけどね…でも諦めずに一つのことを続けるのは大変なことなのよ?」
「そう…なの?」
尋ねるバルドに頷いて返す
「だって諦めてしまった方が楽でしょう?僕には向いてなかったって投げ出せばその先の失敗はしなくて済むんだから」
「うん…僕ずっとそうやって諦めてきた。体が弱いから何もできないんだって。だからお荷物って言われても仕方ないんだって」
「今でもそう思う?」
そう尋ねるとバルドは真っすぐ私の目を見て首を横に振った
「少しでもできることをしたいって思うよ。ずっと守ってくれてた姉ちゃんの為に、それにこんな僕を大好きだって言ってくれるマリクやリアムの為に…僕を大事だって言ってくれる人たちの為にも…」
そう言うバルドの目から涙が零れ落ちた
「その気持ちを忘れないで。その気持ちがきっとバルドを強くしてくれるから」
「サラサ姉ちゃ…」
「バルドも一緒に、みんなで幸せになろうね」
そう言いながら泣きながら頷くバルドを抱きしめた
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