第39話 初めての合格

39-1

「…うん。これならOk」

バルドの作品にそう言ったのは10日目だった


「本当?」

「嘘なんて言わないよ」

そう言うとバルドは本当にいい顔で笑った


「記念すべき第1号ね」

「うん!」

「何々?第1号ってことは合格?」

ナターシャさんがマリクとリアムと一緒に寄ってくる


「合格って?」

リアムが尋ねる


「よくできましたってことね。おめでとうって言わなきゃ」

「「バルドお兄ちゃんおめでとー」」

マリクとリアムが声をそろえて言った


「ありがと。2人とも」

2人の頭をなでながら言うバルドは何とか涙をこらえている感じだった


バルドはすでに30個近くを作っている

最初こそ日に2個~4個とバラツキはあったが5日目頃から自分で1日に3個までと決めたようだ

集中力がまださほど継続できないため4個目の精度が落ちることに気付いたからだ


午前中は庭で遊び、昼から1つ作った頃にマリクたちが昼寝に入るのでお勉強の時間、その後2つ作ってからはマリクたちと遊ぶのが作業する日のルーティンになった

休む日は作業する時間がマリクたちと遊んだり本を読んだりする時間になる為、マリクとリアムもさほど不満は無いようだ


「最初に苦しくなった後は体調も大丈夫みたいだし…しばらくこのペースで続けてみようか?」

「うん。そうする」

庭で遊んでいるときの日光浴やこれまでと違って栄養分の増えた食事のおかげもあるだろう

でも一番大きいのはバルド自身が前向きな気持ちになれたことではないだろうかと思っている


「最近は疲れを感じた時もちゃんと休んでるものね」

頭をなでると嬉しそうに笑う


「休んだ方が身体が楽だってわかった。無理したり我慢したりしてもひどくなるだけだったから」

「それに気付けたバルドはえらいわ」

ナターシャさんもバルドの頭をなでる


「僕こんな風にほめてもらうの久しぶり」

「?」

「母さんがいたころは時々だけどほめてくれた」

その後はリルが目の前のことで精いっぱいでそんな余裕もなかったのだろう


「別にほめてもらえるようなこと何もできなかったし不満は無かったけど…姉ちゃんに悪いなって思ってた」

「バルド…」

「僕が褒めてもらえるようなことできるの嬉しい」

そう言いながらも複雑そうな顔をする


「何が気になってるの?」

「…姉ちゃんがトータさんと付き合うようになって僕にとってはいい事ばっかり続いてるけど、僕が姉ちゃんにしてあげられることが何もないのが悔しい」

まだ子供なのにと思う

でも子供なりに真剣に考えているのだ


「ねぇバルド」

ナターシャさんがバルドをまっすぐ見ていた


「私がマリクとリアムに一番望むことは何だと思う」

そう尋ねられてバルドはしばらく考えていたがわからないと首を横に振った

「私が望むのはこの子たちが自分のしたいことを見つけて幸せになってくれることよ」

「え…?」

意外そうな顔だ


「私もそうよバルド。シアやこの子に幸せになって欲しい。子どもたちの笑顔が私を幸せにしてくれるの。もちろんマリクやリアム、バルドの笑顔もね」

「笑顔…?」

「バルドがリルに何かしたいのはなぜ?」

「…姉ちゃんにもっと楽して欲しい。以前みたいに笑って…あ…」

バルドが何かに気付いたようにこっちを見た


「みんなそうじゃないかな?大切な人には笑っていて欲しいし、幸せでいて欲しい」

「だからバルド、あなたが今夢中になってるこの細工を楽しんでるだけでもリルは充分嬉しいんじゃないかな?」

ナターシャさんも言う


「それに何より体調崩してないこと自体がリルを安心させることにもなるわ」

「安心…」

その言葉をかみしめるように何度もつぶやく


「バルドもリルがケガして帰ってきたら悲しいでしょう?」

「うん」

「リルもバルドが苦しんでる姿を見るのは悲しいと思うんじゃないかな?」

「…姉ちゃん僕が苦しくて眠れないときいつもごめんねって泣いてた。僕それが一番嫌で…だから苦しくても我慢しようって…でも我慢すればするほどひどくなってどうすることも出来なくて…」

「そういう不安が一番苦しさを引き寄せちゃうからね…」

病は気から

何故かそんな言葉を思い出していた

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