38-4
「バルドこっちよ」
私は職人の通りへバルドを促した
「ここを真っ直ぐ行けば職人ギルドがあるから1人で来て何かあったらメリッサさんを頼ればいいわ」
「うん。商店のほうなら冒険者ギルドに行けばいいんだよね?」
「そうね」
ちゃんと分かっているようだと安心する
「ランディさんおはよー」
「あーおはよう…その子は?」
ランディさんはバルドに気付くなり訊ねる
「前に話してた子でバルド。バルド、この人はランディさんよ」
「初めまして。バルドです」
バルドは緊張気味に頭を下げる
「オーナメント作ってくれるってやつか?」
「そう。バルド、持ってきたの出して」
「うん」
バルドは持っていたバッグからオーナメントを取り出しでランディさんに渡した
「ほぅ。中々上手いこと出来てるな。まだ売りもんには難しいが…」
「ランディさん、それまだ練習3日目の作品よ」
「は?」
ランディさんは再び作品を食い入るように見る
「3日目でこれとは大したもんだ…」
「本当に?」
バルドの目は真っ直ぐランディさんを見ている
「ああ。因みに何が悪いかはわかるか?」
「形が上手くいかなくて…」
「それが分かってるなら充分だ。中心って概念を考えてみろ」
「中心…」
「それが分かれば一気に良くなるはずだ」
ランディさんはそう言って笑う
かなり大きなヒントだ
「サラサちゃんはわざと言ってなかったのか?」
ランディさんは私なら当然わかってるはずだろう?と言いたげだった
「そういう訳じゃ無いんだけど…この子、かなり自分で考えて色々試してるからどこまでやれるか気になって…」
「なるほど。厳しい師匠だな」
豪快に笑ったランディさんに苦笑で返す
「バルド、お前が売りに来るのを楽しみにしてるぞ」
「っ…ありがとうございますっ!」
頭を下げたバルドの声は震えていた
「ランディさん、材料また貰っていくね」
「おう。好きなだけ持って行ってくれ」
「ありがと。じゃあまた来ますねー」
「ああ。気を付けてな」
2人で頷いて店を出た
「バルド?」
歩きながらずっと俯いているバルドを脇の通り道に促した
「どうしたの?」
顔を覗き込むとバルドの目からは涙がこぼれていた
「ランディさん、僕が持っていくの楽しみにしてるって…」
「そう言ってたわね」
「僕…」
バルドは一旦言葉を飲み込んだ
「あんな風に言ってもらったの、はじめてだから…っ…」
関係の無い人からお荷物とまで言われたバルドに初めてかけられた真っ直ぐな期待
嬉しくないはずがない
私はバルドを抱きしめた
「サラサ姉ちゃん…僕…」
「良かったねバルド」
「うん…」
あやす様に背中をトントンとたたく
「ランディさんの期待に応えられるようにしっかり練習しなきゃね」
バルドは腕の中で確かに頷いていた
少しして落ち着いたバルドとカフェに向かっていると向かいからナターシャさん達がやってきた
「「バルドお兄ちゃん!」」
マリクとリアムが飛びついた
「どうした?」
「バルドお兄ちゃんも行こ~!」
リアムはしっかりとバルドの手を握っていた
「行くってどこに?」
「パパ探し」
バルドがどういう意味か分からずナターシャさんを見る
「広場で遊んでたんだけどね、いっしょに遊んでた子たちがお父さんが迎えに来て帰っちゃったの」
「あぁ…」
それを見て自分たちもカルムさんに会いたくなったのだろう
「でも場所分かるんですか?」
「鍛冶屋よ」
「あの人たちは自分の武器から離れないの」
「離れないって…」
「手入れの間ずーっと鍛冶屋にいるわ」
ナターシャさんは呆れたように言う
「カルムもレイもアランも…もちろんトータもだけどね、あいつらただの戦闘馬鹿なのよ」
「戦闘馬鹿って…」
私は思わず苦笑する
「装備も武器も絶対目の届く範囲にしか置かない。ほら、この店よ」
「「パパー?」」
マリクとリアムはバルドの手を離して扉を開けた
「お、どうした?」
カルムさんが驚いてそばにやってくる
「パパを迎えに来たの」
マリクが得意げに言う
「パパ迷子」
「は?」
リアムの言葉にカルムさんは唖然とし、レイは噴出した
「何だ随分でかい迷子だな?」
「てか親方、ここはいつから迷子預かり所に?」
工員がゲラゲラと笑っている
「サラサ、シア貰うよ。もうすぐ終わるからここ座ってろ」
身体を気遣ってか座っていた椅子へと促してくれる
「バルドも疲れたらそこ座ってろよ」
「分かった」
頷くが今のところ座る素振りは見せない
マリクとリアムはカルムさんに抱き上げてもらい満足顔だ
いつもの空間と違うことにはしゃぐ子供たちが工房の職人にじゃれついている姿に平和だなーと思ってしまう
子供は宝といったレイの言葉通り泣いたり騒いだりしても邪険にする人を見かけることは無い
それどころか一緒になって遊ぶ店主が驚くほど多い
世界の差、価値観の差、そんな言葉で片付けるのはもったいない気がして、そんな風に思う自分に笑えてきた
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