38-3

「サラサ姉ちゃんおはよう。シアもおはよう」

翌日朝食の準備をしているとバルドが起きてきてくるなり椅子の上の揺りかごでご機嫌に笑うシアの頬をつつく


「おはようバルド調子はどう?」

「すっかり。いつもならどんどん苦しくなって何日か眠ることも出来ないのが嘘みたい」

嬉しそうに言った


「じゃぁこれからもちゃんとすぐに言うのよ?」

「うん」

バルドは大きく頷いた


「おはよ。バルドも早いな?」

「レイ兄ちゃんおはよ。コーヒー淹れる?」

「ああ。頼む」

レイは頷いて椅子に座るとシアを構いだす


「はい」

「サンキュ」

バルドがレイの前にコーヒーを置き向かいの席に座った


「バルド」

「?」

「決まりを1つ増やそう」

「決まり?」

「ああ。昨日の夕方苦しくなったのを考えての事だ」

バルドの顔がゆがんだ


「でも僕ちゃんと約束守ったよ?」

その言葉から作業をやめるよう言われると思ったようだ


「バルド落ち着いて。あなたがこれからも作業を続けるための約束だから」

「…続けれる?」

そう尋ねるバルドの目は不安そうだった


「ああ。ただな、お前の体が丈夫じゃないことを考えれば無理はさせたくない。それは分かるな?」

「うん…」

頷くものの恐れの方が大きいのが分かる


「だから3日ごとに1日休むと約束してくれ」

「え…?」

「今回慣れない状況だったとはいえ4日目の夕方で体が休みたいって言ったわけだ」

「…」

「俺たちが依頼を受けるとき、体がそう言った時はもう遅いんだよ」

「遅い?」

バルドは首をかしげる


「魔物を前にして動けなくなったら死ぬことを意味してるってことだな」

「あ…だからそうなる前に休まなきゃいけない?」

「そういうことだ」

「…わかった。3日ごとにちゃんと休む。だから続けてもいい?」

自分ができるようになったことを必死で守ろうとしているのが伝わってくる


「大丈夫よバルド。あなたの体が悲鳴を上げてるわけじゃないから取り上げたりしないわ」

「本当?」

「ええ。でもね、作業する時に使う集中力は私達でも長く続けられるものじゃないの」

「サラサ姉ちゃんでも?」

「もちろんよ。だからバルドが自分の体と上手に付き合う方法を探っていこう?」

「…うん!」

ちゃんと説明すればわかってくれるバルドの素直さは愛おしいという思いを抱かせる


「とりあえず今日は休みにして明日からまた頑張れ」

「分かった…本は読んでもいい?」

「ああ」

「飯食ったら気分転換にみんなで町行くか?」

そう言い出したのはいつからそこにいたのかわからないカルムさんだ


「カルムさんおはよう」

「おう」

「何か用事か?」

「ああ。武器を磨きに出す」

「なるほど。俺もついでに出すかな。バルドも行くか?」

「いいの?」

「もちろん」

こっちを見て尋ねるバルドに笑顔でうなずく


「僕も行きたい」

「じゃぁついでに竹細工のお店にも行こうか?」

「あー紹介しといたほうがいいかもな。ついでに今までで一番よくできたと思うの一つ持って行ってみろ。まだ売れなくてもお前のこと分かってもらうには充分だろ」

「うん」

バルドは頷くとさっそく選び始めた

よっぽどうれしいのだろう


ナターシャさんたちも起きてきてみんなが朝食を済ませると子供たちはいち早く出かける準備をする

「パパ、ママ早く」

マリクがせかす

「そんなに慌てなくても町は逃げないわよ?」

ナターシャさんがおかしそうに笑いながら言った


「そういえばこの子達が町に行くのって久しぶりだっけ?」

「そうね。大抵依頼帰りに買出しして来てもらうし私達も行くことないから」

ナターシャさんは考えながら言う

道理でワクワクしているはずだ


「じゃあ行くか」

レイが言うとみんな家を出た

さほど遠くないため散歩がてら歩いていくことにした


「バルド、しんどくなったらすぐ言えよ」

「分かった」

素直に頷く


マリクはカルムさんと、リアムはナターシャさんと手を繋ぎ、シアはレイが抱き上げている

賑やかな道中は直ぐに終わりを告げ、カルムさんとレイは鍛冶屋に、ナターシャさん達は広場へ、そして私とシア、バルドが竹細工の店へと別れ落ち合う場所をカフェと決めた

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